初診時の選定療養費にモヤモヤ
「選定療養費」というのをご存じだろうか。療養費と名が付くから病気あるいは病院に関係あるものと多少察しが付くかもしれないが、療養費の前に「選定」と文字が付けられているのが気になる。
「選定」とは広辞苑によれば「選び定めること」とある。わざわざ広辞苑を持ち出すまでもないが「選定」と「療養費」をくっ付けられたところが気になる。選び定められた療養費となるとなにか特別感、高そうな感じがするではないか。富裕層向けの特別待遇の療養費かと思ってしまうが、逆で弱者を選定する療養費と言っていい。
そのことを説明する前に個人的な体験を少し。数年前、岡山県の実家に帰省中、突然、上半身にぷくっとした腫れが現れ、痒いのですこし掻くというか擦っていたが、痒さが増し、赤い腫れがお腹周りや背中にまで広がって来たので、その様子をスマホで写真に撮り、慌てて皮膚科に行った。
ところが皮膚科クリニックの玄関には盆明けの連休表示の貼り紙。そこで近くの総合病院に行くと皮膚科は毎週火曜日のみと告げられた。やむなく高速道路を30分走って津山市の中央病院に。
医師の診立てはじん麻疹。何か今までと違うものを食べたかと聞かれたが思い当たるものはなし。「じん麻疹は原因がよく分からないことがほとんどなんです」と言われ、塗り薬を処方されて終わり。
問題はその後。会計で支払う段になり「当院に通院もしくは過去、当院で診てもらったことがあるか」と尋ねられた。普段かかる病院ではないから返事はノー。すると今度は紹介状があるかどうか尋ねられた。
いやいや、紹介状を書いてもらうもなにも近くの皮膚科クリニックが閉まっているから高速道路を走って来ているのだから、そんなものあるわけない、ということを少し丁寧な言葉で伝えたところ、紹介状がない初診の場合、初診料の他に別料金が必要になると告げられた。
これが選定療養費である。国は医療費の抑制のため様々なことを行っている。最初は医薬分離で診療と投薬を切り離し、病院、診療所が薬を出すことを禁じ、薬は薬局でしかもらえなくなった。
もちろん一気にそうなったわけではなく小さな診療所や近くに薬局がない地方の診療所では院内処方が認められていたが、それも今ほとんどなくなった。
その次に医療の地域連携が進められ、できるだけ地域の診療所や病室が多くない病院で診てもらい大病院へ来院する患者数を減らしにかかった。
しかし患者にしてみれば大病院の方が設備も整っているし、医師の技術も上ではないかという漠とした大病院安心感のようなものがあり、風邪程度でも大病院に行く患者はなかなか減らず、大病院では診察待ち時間が長くなり、その分医師の負担が増え、過重労働にもつながる。
そこで導入されたのが選定療養費である。まず地域の診療所で診てもらい、地域の診療所では設備等の問題で対応できない場合のみ大病院で受け入れるというのが地域連携医療だが「大病院信仰」が患者の方にある以上、大病院に行く患者数は減らない。
それなら紹介状がなく、いきなり大病院に来た患者からは初診料の他に特別料金を徴収すれば大病院への患者集中を減らせるのではないかと考えたわけだ。平たく言えば。
実は選定療養費は以前から導入されている。差額ベッド、歯科の金合金、金属床総義歯、時間外診療等がこれに当たる。そこにさらに内容を付け加えたわけだが紹介状なしで行くといくら徴収されるかご存知だろうか。
私が津山中央病院で請求された金額は6,000円だった。初診料、診療費、塗り薬代合わせて1万円近くになった。
その以前にも一度福岡の病院で選定療養費を請求されたことがあったが、その時は5,000円。岡山県の病院は高いのかと思ったが、どうもそうではないらしい。というのは今は7,700円と厚生省がHPでも打ち出しているから全国共通のようだが、数年おきに上がっている。
ここまで高額になればさすがにいきなり大病院に行く人は減るだろう。特に金持ちでもなければ。
何となくモヤモヤし納得できないのは医療の不平等ではないかと感じるからだ。富裕層はそれぐらいの金額負担はなんともないだろうし、差額ベッド代負担程度は痛くも痒くもないだろう。
だが、庶民にとっては大きな負担である。もちろん掛かり付け医の紹介状があれば7,700円の負担はなくなるが、なかには紹介状を書きたがらない医師もいるし、私のじん麻疹のように突発的で、近くの診療所が休院していたということもある。
さらに他の問題もある。同じ病院内でも診療科が違えば初診と同じで選定療養費を徴収されるということだ。私の場合で言えば現在定期的に泌尿器科で診てもらっているが、内科等で胃や大腸の内視鏡検査をしてもらおうとすれば7,700円を別途請求される。
「以前ここで胃カメラも大腸カメラもしてもらっていてもですか」
「はい、1年以上間が空いていれば別途料金が必要になります」
「それまで何度も内科で診てもらっていても」と食い下がり、色々尋ねると「現在、当院で診てもらっているなら担当医に他の診療科への紹介状を書いてもらえばいいですよ」。
同じ病院内でも診療科が違うと紹介状が必要ということに驚いたのと、1年以上間隔が開くと初診と同じ扱いになるというのも驚いた。
日本の医療もアメリカ並みになりつつあるようで富裕層はいくらでも高度医療が受けられるが、低所得者は切り捨てられ、生命の選別が行われる日も近づいている。
|