急激に逆回転している時代の歯車を止められるか。(3)
〜北朝鮮が羅針盤になっている


北朝鮮が羅針盤になっている

 COVID-19が終息すると世界は中国化する、と以前に書いたが、中国(習近平)は北朝鮮(金正恩)を注視している。もう少し正確に言えば、北朝鮮に対する世界、特にアメリカの出方を注意深く観察している。そしてロシアのプーチンは中国を通して北朝鮮を観ている。

 今世紀に入るとアメリカは帝国でなくなった。帝国を支える経済力が衰退し、帝国であり続けることを放棄せざるを得なかったのだ。経済力の衰退は軍事力の衰退も意味し、いまや自国を守るのが精一杯という状態。そのことを内外に公表したのがトランプ元大統領で、彼は「アメリカンファースト」という分かりやすい言葉で表現した。
 もちろん帝国であり続けることをやめたのはトランプでもないし、非帝国化への道を開いたのもトランプの功績ではない。トランプはアメリカの経済力がもうどうしようもない程落ちていると世界に向けて公言しただけだ。
 それより先、オバマ元大統領は「アメリカは世界の警察ではない」と軍事力の縮小、とりわけ海外での軍事力行使に否定的な見解を示していた。

 帝国を支えるものは軍事力と経済力である。この2つが衰退したが故にアメリカは帝国であり続けることができなくなったのであり、ローマ帝国の最後とよく似ている。
 いつの時代でも帝国の崩壊は辺境から始まる。東アジアはアメリカにとって辺境の地である。故に東の果ての小さな半島の国がミサイルを打ち上げようと核を持とうと、それほどの関心はない。航続距離が延びてアメリカ本土を脅かすまでにならない限り。
 いくら北朝鮮の周辺国が脅威を訴えても、もはや「アメリカは世界の警察ではない」し、「アメリカンファースト」で自国アメリカの経済や生活を守ることが最大の関心事なのだから。

 北朝鮮はそんなアメリカの様子を注意深く見つめ、ミサイルと核開発を続けてきている。最初はアメリカ「帝国」を刺激しないように用心深く。そして徐々に回数を増やし、反応を見て行ったが、アメリカ「帝国」崩壊は本当だったと悟ると、金正恩は核とミサイルの開発を加速させて行った。
 その結果が、今年1月中の7回、計9発のミサイル発射だ。これは異常な多さであり、本来なら国際社会から新たな経済制裁が科せられてもおかしくない状態だが、それはなかった。

 これを注意深く観察しているのが中国とロシアで、北朝鮮の軍事力が飛躍的に向上し、そのことが分かりながらアメリカは動こうとしないと判断。
 中国は昨年、強制的に香港の中国化に乗り出し、次は台湾への軍事的進攻を企ている。そして今回のロシアによるウクライナへの軍事侵攻である。
 中国はここ数年、軍事力の強化に乗り出しているが、2020年10月に開催された中国共産党の第19期中央委員会第5回総会(5中全会)で「建軍100年奮闘目標の実現」を提起しているが、その中で「戦争に備える」「受動的な戦争への対応から主動的な戦争の設計への転換」が唱えられている。
 そして2022年3月7日、習近平が人民解放軍、武装警察の幹部を前に「全軍は実際の戦争準備の業務をしっかり行い、適時かつ効果的に、さまざまな緊急事態に対処」する必要があると演説。
 「実際の戦争」と2年前の「主動的な戦争の設計」から、さらに一歩踏み込んでいるのが気になる。「実際の戦争」と言うぐらいだから新疆ウイグル自治区の反政府運動弾圧程度のことではないだろう。海峡を渡り台湾への軍事侵攻を計画してのことか、それとも第3次世界大戦の勃発までを念頭に置いているのか気になるが、このところ中国の海、空での近隣国への挑発行為も2020年10月の5中全会での指示が大きく影響していると見るべきだろう。
                                             (4)に続く



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