急激に逆回転している時代の歯車を止められるか。(2)
〜プーチンと習近平の共通点


プーチンと習近平の共通点

 ところで、独裁者はいきなり現れるわけでも、最初から武力で民衆を弾圧する独裁者の顔をして現れてくるわけでもない。最初は善人の顔をして現れ、笑顔を振り撒かないまでも、強面の本心は仮面の下に閉じ込め、前政権の批判者、改革者然として現れる。
 そして現状に不満を持っている層に訴え、一定の支持を得て政権を握ると、いよいよ本性を現し始めるが、それでもいきなり仮面を脱ぎ捨て、牙を剥き出しにして民衆に襲いかかるわけではないから本性を見破りにくい。ヒトラーやドナルド・トランプでさえ民主義の否定者として登場したわけではないし、選挙で民衆の一定の支持を得て政権を手にしたのだ。
 衣の下から鎧がチラチラと見え始めてはじめて「おやっ」と感じ出し「何かちょっと違ったか」と思った頃には、もう見えない縄ですっかり縛られている。そうなると後は簡単。憲法を変えて、自らが就任している大統領や首相、主席などの任期を延期し、自らの権力を絶対的なものにしていく。
 ここまでくれば最終仕上げ段階で、後はやりたい放題。政敵や自らに反対する者を暴力的に排除して行くだけだ。

 過去の歴史を見れば独裁権力を手に入れた者はほぼこの過程を取っている。現在、この最終段階に来ている大国の指導者がロシアのプーチンと中国の習近平で、ともに法を変更して自らが権力者として君臨する期間を大幅に延長したばかりか、この2人は独裁者のイメージまでも変えてしまったから怖い。
 従来、独裁者は非民主主義国家か発展途上国のリーダーで、経済が発展している大国のリーダーが独裁化することはなかった。

 それなのになぜ、彼らは独裁化して行ったのか。なぜ、それが可能だったのか。実は、この2人には共通点がある。1つは先人が善くも悪くも偉大過ぎたことであり、もう1つは権力の集中と個人崇拝が社会の発展を阻害した反省から、個人崇拝の禁止、権力の分散と民主化を進めようと大統領、主席の任期が定められたにもかかわらず、それを撤廃したことだ。

 彼らは過去の歴史に学ばなかった。いや、悪しき歴史、悪しき前例の方に学んだ。プーチンはスターリンに、習近平は毛沢東に学び、トップの地位に任期制を設け、個人崇拝を排し、独裁化の弊害を正した、その後の歴史を学ぼうとしなかったばかりか、スターリンや毛沢東が行った方法を真似、強大な権力を掌握しようとしている。

 習近平がこのところ大きな行事で中山服(ちゅうざんふく、人民服とも呼ばれる。欧米では毛沢東が着ていたことからマオスーツとも)を着だしたのはその1つの表れだろう。
 彼が着る人民服は個人崇拝を排し、指導者の地位に任期制を導入し、「改革開放」政策で経済発展を促したケ小平が着ていた紺の中山服ではなく、毛(マオ)が好んで着ていたグレーの、見るからに高級な中山服である。そこには毛沢東の偉業、偉大さを想起させ、自らを毛沢東のイメージに重ねさせようという意図を感じさせる。

 プーチンはソ連の国家保安委員会、KGB(カーゲーベー)の出身である。国家保安委員会と言うより、アメリカのCIAと同じような組織と言った方が分かりやすいだろう。つまり諜報活動や国民の監視、政敵の暗殺などを行っていた組織の出身者だから、表の政治活動より裏の政治活動の方を得意としている。
 彼がロシアの大統領に就任したことで、ペレストロイカで民主化に一時期向かい始めた体制を再び暗黒のソ連時代、スターリン時代に逆戻りさせた。政敵の暗殺を謀るという手口とともに。
                                               (3)に続く


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