移動販売が流通を変える(3)
「とくし丸」が移動販売に新風


「とくし丸」が移動販売に新風

 買い物弱者は地方特有のものではない。近年、都市部における買い物弱者が問題になっているが、ここでは都市部ではなく地方の買い物弱者の問題を中心に据える。大都市近郊にも高齢化&過疎地が生まれてきているが、問題は地方の方がより深刻だ。

 すでに述べたように移動販売は戦後から形を変えてずっと続いているが、その担い手は個人事業主あるいは零細企業である。唯一、例外なのが生協。なぜ生協がやれたのか。詳しい説明は省くが、生協は株式会社ではなく組合員で構成されているという経営形態の違いが大きい。

 近年は生協もスーパーなどと同じように店舗販売を行っているが、それでも宅配事業が今でもメーンで、売り上げも宅配事業の方が多い。
 購入形態も独特で組合員による共同購入だが、時代の流れとともに個配を導入し、個配が多い地域生協もあるが、それでもまだ共同配達の比率の方が多い。
 共同配達、個配、店舗販売それぞれにメリット、デメリット、課題があり、それらをどう克服していくか生協も模索中のように思える。

 それはさておき、消費者サイドからすれば食料品は中・小型トラックなどで売りに来る移動販売の方が楽しい。
 理由は目の前で選ぶ楽しみと販売員と言葉を交わせるからだ。

 会話は人が生きていく上で非常に重要な要素である。私は過疎の地方に行くと、古老によく話しかけるが、話しかけると一様に快く応じ、こちらが話を切り上げるまで話される。
 かくいう私自身もそうだが、普段は大抵決まった相手との会話になり、ある意味会話に刺激がない。そこに顔見知りではない第3者が来て話しかけたり、色々尋ねたりすれば普段とは違う会話が生まれ脳が活性化するし、新しい話は面白く、楽しい。だからついつい話し込んでしまう。
 逆に言えば、それだけ会話による新しい刺激に飢えているわけで、ネット購入やネットスーパーは便利であっても、こうした会話欲求が満たされない。

 これ(目の前で商品を選ぶ楽しみと販売員と会話をする楽しさ)を満たしてくれるのが移動販売であり、過疎地には移動販売こそが必要だ。

 だが、利益優先、効率優先の企業にはこれができない。過疎地を回る移動販売は販売量、販売額が小さすぎて、図体が大きい企業では利益を出せないし、トントンでは中企業でさえも労多くてメリット少しになる。
 それ故、移動販売で回ってくるのは昔から個人事業主の小さな魚屋や肉屋、豆腐屋だ。最近はパン屋が加わっているが。

 そこに目を付けたのが「とくし丸」である。大手企業では出来ない移動販売の担い手は個人事業主で、商品供給は地域スーパーが行う。その両者を結び付けるのが「とくし丸」だ。
 キーワードは個人事業主と地域スーパー。提携相手を全国展開の大手スーパーではなく地域スーパーとしたところがキモで、そこと個人事業主を結び付けることで双方がウィンウィンの関係になるようにしたところがミソだ。

 移動販売の商品価格は提携先の地域スーパーの店頭価格に10円、または20円をプラスした価格設定にし、この10円(あるいは20円)を地域スーパーと移動販売の個人事業主(とくし丸では「販売パートナー」と呼んでいる)で半分ずつ分ける仕組みである。

 これは実にうまく出来た仕組みで、従来の移動販売と決定的に違うのは扱う商品が魚とか肉、豆腐といった単品ではなく総合的だという点。
 また生協の宅配と違って冷凍食品中心でも事前注文制でもなく、その場で見て、買うものを選べるという点である。

 販売パートナーは事業開始に当たって仕入れ先との交渉などの煩わしいことから解放されるし、商品仕入れも1箇所で済む。また値付けについても考える必要がない。
 一方、地域スーパーは自店舗の宣伝と商品の拡販になる。また、こうした移動販売を自社で行おうとすると販売員の教育等諸々の業務が増え、それらに社員の手が取られる。中堅どころの地域スーパーにしてもこれはかなりの労力負担になるから、外部に任せた方がいい。
 まさに双方にとってメリットがあり、とくし丸と提携する地域スーパーは全国に増え、2023年3月29日現在、47道都道府県で1,119台が稼働。岡山では天満屋系の天満屋ストア(天満屋ハピータウン、天満屋ハピーズ、ハピーマートを展開)が、福岡ではマルショク等が提携スーパーになっている。

 「とくし丸」というのは移動販売車の名前であり、このシステムを作り上げ運営している会社の名前でもある。
 名前からある程度推察できるように発祥は徳島市で、2012年1月に創業。その後、2016年5月に野菜宅配業を営むオイシックス(現:オイシックス・ラ・大地)が買収し現在に至るが、注目したいのは創業年次である。

 2012年1月といえば、前年に東北地方を襲った地震と津波による大災害から10か月後。災害直後にセブンイレブンを始めコンビニ数社が現地に軽トラックの移動販売を派遣したり、イオンがトラックに商品を積み、被災地で移動販売に乗り出したことを記憶している人は多いのではないか。
 いずれも既存店舗が被災し、現地の人が買い物をできずに困っているのを見かねての処置だが、一時的な販売ではなく継続的な移動販売に乗り出したのが「とくし丸」だといえる。
                            (4)に続く

#移動販売 #とくし丸


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