不正列島ニッポン(2)〜犯罪、不正行為に鈍感な社会(2)」
〜人員整理ではなくワークシェアリング


不正請求ではなく詐取だ

 ここまでなら何ら問題にされるところはない。ところがA支社は功を焦ったのか、対前年比売り上げ増の無言圧力を感じていたのか、受託業務で派遣する人数を水増しして自治体に報告し、不正に多い報酬を得ていたのだ。
 これはほとんど詐取といっていいと思うがKNT-CTホールディングスには「不正」に対する意識自体が薄いように見受けられる。

 今回の不正請求に対し近ツリの浦雅彦社長は次のように弁明している。
 不正請求が起きた背景には「新型コロナ受託事業契約に対する知識不足」と「営業目標達成意識」があったと弁明した上で、「通常の旅行の受注型と同じ感覚でBPO(自治体の受託業務)事業を考えていたのが一番の理由」であり「法的な知識不足(自治体との契約に関する知識不足)」だった、と。

 「法的な知識不足」とはどういうことなのか。それについて高浦社長は次のように弁明している。
 「円滑運営に支障がなければ、自治体との契約に沿った人数などの内容を遵守しなくてもよい」という認識を近ツリ社員が持っていた。また「管理体制の構築も不十分」であった、と。

 「社会の仕組み」などよく知らない私は上記の言葉を聞いてますます分からなくなる。契約内容は遵守すべきものというのが社会的な通念だと考えていたが、それは間違いで、「遵守しなくてもよい」ものだったのかと、この時初めて知らされた。
 こういう認識なら不正は蔓延るはずだ。

 また「法的な知識不足」だったということは近ツリは法的なことをほとんど知ろうとも勉強しようともせず、契約も形だけで、人数を含め全てにいい加減、どんぶり勘定で行ってきていたのではないか。
 トップからしてこの認識だから下は推して知るべしだろう。

人員整理ではなくワークシェアリング

 ところで、今期最高益の中身で問題にしたいのは売上高より、むしろコスト削減の方だと考えている。
 近年、企業がコスト削減という場合、まず行うのが構造改革という名の下の人員削減である。昔は「雇用を守る」という考えがあったが、近年、日本企業はアメリカ並みになり、経営者の給与は天井なしで上げる一方、業績がダウンしだすと、これまたアメリカ並みにすぐレイオフに走る。「首切り」「リストラ」という言葉を最近は「構造改革」「デジタル化」などの耳当たりのいい言葉に変えて。

 近ツリの場合もコロナ禍で経費削減を行っているが、それは次の2つの方法で行われた。
 1つは販管費の削減で、2019年度の688億円を2022年度は431億円へと削減したのはいいとして、もう1つが人員削減。2019年度6968名いた社員数を2021年度は3711名とほぼ半減させている。

 つまり受託業務の不正受給による売上増と社員数の削減という2つの方法で過去最高益を達成したわけだが、これでハッピーになったのは誰なのか。
 半数近くの社員はコロナ禍にも関わらず職を失ってしまった。彼らは最高益の恩恵を微塵も受けていないどころか、会社が過去最高益を出すための犠牲、人柱になったわけだ。

 過去に見た同じような光景が甦る。デジャブだ。当時、随分持て囃されたがゴーンの日産再建がこれと同じだった。いや時系列で言えば、ゴーンのやり方をKNT-CTホールディングスが見習ったということになるが。

 こういう場合、必要なのは「身を切る改革」ではないか。まず、トップを始めとした役員が自分達の報酬をカットした上で、社員に「人員整理をしない代わりに、それぞれ給与の◯◯%カットに応じてもらえないだろうか」と持ちかければ理解が得られるのではないか。もちろん、売り上げが戻れば給与も元に戻すという約束で。

 労働時間を短縮することによって雇用を分け合うワークシェアリングである。労働時間を短縮することにより受け取る報酬は減るが、人員整理をすることなく雇用が維持される。

 その場合でも役員クラスは社員より遅れて報酬を元に戻すくらいのことをやらなければならない。普段から高い報酬を受け取っているのだから。
 人員を半減すればコロナが収まったり、景気が上向いた時に人員不足で対応できずチャンスロスになるが、人員を維持していれば景気が上向いた時にも慌てることなく対応できる。

 第一、企業の業績ダウンですぐ希望退職者を募るなどの人員整理では生活必需品に回す金も減り、国内消費は減り、経済は停滞する。当然、旅行客も減る。結果、いつまでたっても日本経済は浮上せず、やがて日本は最貧国の仲間入りをすることになるだろう。
                                            (3)に続く


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