国公立大病院の90%が赤字経営
地方と都心部で医療の不平等が進んでいるのは近年よく知られている。要因は様々だが、地方の医学部生が卒業後、地元の医療機関に就職せず都会に出ていっているのが1つ。
地方医師会もそうした現状を憂い、奨学金受給条件に卒業後は地元で就職、あるいは地元で就職すれば返済免除などを打ち出し、地方の医師不足解消を試みようとしているが、それでも都会に出ていく卒業生が後を絶たないのげ現状だ。
学生側の言い分は都会の大病院で研修した方が高度な医療技術を身に着けられるというもの。また転職の機会も都会の方が多いのも一因らしい。たしかに選択肢は都会の方が多いし、向上心を満たされるのも都会の方だし、実利もあるだろう。
「医は仁術」と言ったのは昔の話で、今や「医は算術」の世界だ。
そして全国的な医師不足にもこのことが大きく関係しているが、それは後述するとして、昨年12月、国立大学病院の赤字が発表された。
驚くのはその額と赤字病院数。全国42大学病院の内32病院が赤字経営で、赤字額の合計は281億円と推計されている。
実に国立大病院の76%が赤字なのだが、これに公立病院(自治体病院)を加えると、なんと90%の国公立病院が赤字経営ということになる。
なぜなのか。赤字幅が膨らんだのはコロナ禍で受け入れ入院患者数を制限したしたことも影響しているが、COVID-19が5類になって以後も患者数はコロナ禍以前に戻っていない。
さらに医師の「働き方改革」による影響が大きい。これは中小企業で見られる現象とよく似ており、人件費と諸経費のアップが経営を圧迫しているのだ。
といって医師や看護師の給与を上げても、労働時間を増やせば医師、看護師が辞めていく。実際コロナ禍で辞めた看護師は結構多く、一度職場を離れた彼らがその後戻って来ることがないのはタクシーや運送、旅行業界と同じだ。
問題は国立大病院の赤字と医師の「働き方改革」が地方の公立病院、私立病院に与える影響である。
すでに見たように岡山県北東部の地方の公立病院は定年退職医師の再雇用と岡山大学医学部からの医師派遣で地域医療が支えられている。
これは公立病院に限らず私立病院でも同じで、鶏と卵論争ではないが総合病院は診療科と医師を揃えなければ患者は来ない。患者が少なければ医師を雇用できない。診療科を閉鎖すればその分以上に患者数が減るという悪循環になる。
ここで問題になるのは医師の雇用で、募集しても地方病院に医師が来ないという現状がある。それを大学医学部に頼み込んで医師を派遣してもらうことで凌いでいるのだ。
例えば隣接町の私立総合病院の皮膚科は週1日だけの診療で、医師は岡山大学医学部からの出張だ。
大学にとっては同じ地方の医療機関なら公立病院や診療所より私立の総合病院の方が医師を派遣しやすい。概して私立病院の方がそこそこのレベルで医療設備を充実させている(そうでないところもあるが)から派遣される医師の方も設備が整っている病院の方を選ぶだろう。
最近では多少変化が見られるとはいっても医学部は医局制が色濃く残っており、医師は大学の医局の指示で派遣先病院が決められるから自分の意思で選ぶことができず、若手医師に言わせれば「会社の転勤と同じ」で逆らうことはできないと諦め顔で言う。
(3)に続く
#国立病院の赤字で崩壊する地域医療
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