国立大病院の赤字拡大で崩壊する地域医療(3)
働き方改革で無医地区が拡大


働き方改革で無医地区が拡大

 こうした状況にここ1、2年変化が見られだした。大学が派遣医師の引き上げにかかっているのだ。
 理由は働き方改革による医師不足。今までは研修医等若手医師の長時間勤務で支えられていた大学病院そのものが「正常運転」を行おうとすれば途端に医師不足に直面したわけで、彼らも背に腹は変えられず、今まで派遣していた病院から医師の引き上げにかかっている。
 その影響を最も受けるのが過疎・高齢化が進む地方だが、そこだけに留まらず、地方の中核都市でも構図は同じで、無医地区が増えれば中核病院に患者が集中することになり、そこで働く医師は過重労働をせざるを得ず、それで辞めていく医師も最近は増えている。

 中核都市に限らず大都市でも同じことが起きており、このあたりは都市部でも徒歩圏内に店舗がない無店舗地区が増えているのと同じ構図で、今後日本全国で起きていくだろう。
 地方の公立診療所で月に一度胃カメラ検査ができると感心し、これなら田舎生活もそれほど憂うことはないと考えたのは今だけで、1、2年後には岡山大医学部から医師の派遣がなくなるどころか、現在勤務している定年退職後の雇用医師が辞めれば後任医師を見つけることもできなくなり、診療所の閉鎖ということもあり得る。

 もう1つは診療科の偏在である。減っているのが泌尿器科、外科、産科、小児科。代わりに増えているのがアレルギー科や美容整形医。
 一言でいえば「きれい」「時間内診療」「儲かる」分野。産科、小児科はいつ呼び出されるか分からないから敬遠され、産科は「医療事故」で訴えられることがあるから敬遠されている。
 最近の性病増加は泌尿器科を掲げる医院の減少も大いに関係していると思われるが、そのことを正面から取り上げた調査研究や論調がないことも関係しているのではないか。
 これだけ性的接触が言われながら、感染を心配してもかかれる医療機関がなければ性病が拡大するのは当然で、医師不足も診療科偏在も倫理や道徳で解決できる問題ではない。
 社会がきれいなことにしか関心がなく、現実を直視しなくなっていることも問題だし、医学部生の増加や医師の診療報酬アップにも取り組まなければならないだろうが、その原資をどこで確保するか。
 我々の社会は今難しい課題に直面している。


#国立病院の赤字で崩壊する地域医療


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