高層ビルの精度不良、虚偽申告
数値の改竄、施工不良のずさんな工事、そんなことをするのは発展途上国か地方の中堅ゼネコンぐらい。大手ゼネコンはきちんとした仕事をしている。
そう思いたいし、そうあって欲しいが、自動車メーカーの不正に見たように何10年も前から不正行為が行われていたことを考えれば大手企業には不正はないとノー天気に信じることはできないだろう。
今春、建設業界に激震が走った出来事があった。スーパーゼネコンの大成建設が札幌市で建設中の地下2階、地上26階の高層ビルをやり直すことが発表されたのだった。
理由は鉄骨の精度不良と数値の改竄による虚偽申告の発覚。その時点で鉄骨はすでに15階まで組まれていたが、すべて解体し、建て替えるという全面やり直し。まさに前代未聞の出来事である。
不正が発覚したのは内部告発でもなく、発注者であるNTT都市開発の担当者が現場を確認した際、ボルト位置が仕様書とわずかにズレていることに気付いたのが発端。八郎山トンネル工事の和歌山県担当者とは大違いである。
ボルト位置のズレは数mm。その程度は問題ないだろうと考えるかもしれないし、実際、工事課長代理は「この程度のズレは品質上問題ない」と考えたようだ。だが26階建ての高層ビルである。わずかの位置ズレでも大惨事を引き起こす可能性はある。
一事が万事という言葉もある。検査すると地上部で722か所のうち70か所で、地下部では32か所のうち7か所で精度不良個所が見つかった。
それだけに留まらず、コンクリートの床スラブが570か所のうち245か所で、平均6o、最大で14oのズレが、さらに柱は傾きの限界許容値を平均4o、最大21o超過していたことが分かった。
ここまでくれば手直しでは納まらないだろう。
スーパーゼネコンにしてはあまりにもズサンな工事で呆れかえるが、商業施設やホテル、オフィスが入る地上26階建ての複合ビルだけに呆れるだけでは済まされない。
それにしてもなぜ、という思いを禁じえないが、八郎山トンネルの件でもそうだが、現場の品質管理が甘くなっているのは間違いない。
問題は品質管理が甘くなった原因である。
1.自社利益優先体質
円安による資材費の値上がりもあるだろうし、手直しコストより偽装を選ぶ体質が組織あるいは部署にあったと思われる。
2.経験者不足
団塊世代の退職で企業に経験や技能が引き継がれなくなったのはあらゆる企業に共通した課題だが、製造業、施工業界ではより深刻だ。
3.人手不足と働き方改革
恐らく現場に最も深刻な影響を及ぼしているのは人手不足だろう。人手不足はコロナ禍以降あらゆる業界で深刻なようだが、建設土木の現場では単なる人手不足以上に働き方改革による労働時間の制約が大きく影響している。
週休2日制や残業規制等で現場は超過労働が認められなくなり、工期に間に合わせられなくなってきた現場がいくつもある。
施主が納期の延長に対し寛容であればいいが、そうはいかない。特に民間施設では開業時期が決められており、何がなんでもオープン予定に間に合わせなければいけないとプレッシャーが現場にかかって来る。
同情するわけではないが、今回の場合も現場のプレッシャーは大変なものだったに違いない。「この人数で、この工期をどう守れと言うのだ」。そんな文句の一つも言いたいだろう。
だからといって不正や虚偽の報告が許せるわけでもないし、品質管理を疎かにしていいわけはない。
特に品質管理計画書を基に作成する自主検査書類すら作成していなかったのだから言語道断であり、比較的早い段階で不良工事が発覚し、工事のやり直しになったのは不幸中の幸いと言えるかもしれない。
もし、あのまま地下2階、地上26階建ての複合ビルが何事もなかったかのようにオープンしていれば、最近、列島各地で地震が頻発しているだけに、ビル倒壊という未曽有の惨事が引き起こされていたかもしれない。
問題は浅川組、大成建設の不正、不良工事を前轍としてゼネコン各社が学ぶかどうかだが、土木建設業界を取り巻く環境を考えれば悲観的にならざるを得ない。
すでに上記2と3で見たように、業界の人手不足は今日明日に解決できる問題ではなく、今後も続くからだ。
その一方で工期厳守の要望が緩むことはないだろうし、利益確保は至上命令。となればどこかで何かが行われる可能性は否定できない。
例えば仕入れ価格を抑えるため規定品質に届かない資材を使うとか、壁や床の厚さをわずかに規定より薄くするなどといった方法で。いや、もしかするとこの程度のことは長年に渡り行われてきているのかもしれない。
自動車メーカーや次に取り上げるIHIの長年続けられていた数値の誤魔化し、検査における不正を見れば、残念ながら「日本製は安全、高品質」とは言えないばかりか、その裏で逆のことが行われていたのだから。長年に渡って。
(7)に続く
#大成建設
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