不正列島ニッポン(3)〜横行するデータ改ざんに手抜き工事(5)
−30cmのトンネル壁が3cmの不良工事−


30cmのトンネル壁が3cmの不良工事

 「えっ、なんだこれ! 中が空洞になっている」
 和歌山県で完成したトンネルに照明器具を設置するため天井に穴開け工事をしていた業者が驚きの声を上げた。ほんの数cm穴を開けただけでスポッと抜けたのだ。
 2022年9月に完成し、県に引き渡され同年12月から使用開始予定になっていた「八郎山トンネル」でのことだ。

 このトンネルは南海トラフ地震による津波発生時などのアクセス確保を目的に内陸部に掘削されていた。
 本来、トンネルの内壁は厚さ30cmが必要とされていたが、その後の調査で3cmしかないところもあり、厚さ不足は内壁全体の70%に及んでいたというから驚く。

 請負業者は地場中堅ゼネコンの浅川組(本社・和歌山市)が代表企業のジョイントベンチャーである。
 当然、内壁は全て剥がし、同社の費用負担で掘削以外の工事は全面やり直しになったが、もし、発覚せずに不良工事のままトンネル通行が開始されていたらと考えると恐ろしい。12年に発生した笹子トンネルの天井板剥落事故以上の事故になる恐れがあった。

 それにしてもなぜ、という疑問が湧くが、トンネル工事を担当した作業所長は「トンネル工事ならこの人」と言われるほど経験が豊富で社内でも一目置かれるような存在だったらしい。
 とするなら、なおさら「なぜ」という疑問が湧くが、作業所長は不正に気付かなかったのではなく、率先して不正を行っていたようで、そのことは以下の言葉から分かる。

「覆工コンクリートは化粧コンクリートのようなもので厚さが足りなくても問題ない」
「コンクリートの厚みが確保できないことを認識していたが、工期を短縮したかったのでそのまま工事を進めた」
「数値を偽装して検査を通した」

 それにしても驚くのは覆工コンクリートを「化粧コンクリートのようなもので厚さが足りなくても問題ない」という発言である。
 現場の所長からそう言われて逆らえる作業員はそういないだろう。不承不承でも従わざるを得なかったのかもしれない。

 だが、ここでもいくつかの疑問が浮かび上がる。
なぜ、作業所長はそこまでして不良工事をしようとしたのか。
 一説にはコンクリートが不足していたという証言もあるようだが、作業所長の単独判断なのか、企業体質なのかという問題。
 もう一点は、発注者である県は工事途中や完了後に検査をするはずだが、その段階で不正、不良工事をなぜ見受けなかったのかという問題。

 その後の調査によれば会社ぐるみではなく、現場の所長の判断で不正は行われたようだが、「赤字にするな」という企業体質があったと調査委員会の報告にあるから、単純に現場責任者の判断だけとも言い切れない。
 同社は1988年に会社更生手続きを開始するなど実質倒産、その後再建したが、その時の経験から何が何でも赤字にするなというのが会社の体質になっていたのではないか。
 企業案内には「お客様第一主義」を掲げ「品質を大切に、各工程をひとつずつ誠実に施工すること、誠実でスピーディーな対応を心掛ける」とトップの言葉を載せているが、守られたのは「誠実に施工」ではなく「スピーディーな対応」のみだったようだ。

 ただ、こうした風潮は同社1社だけでなく、この国を覆い、どこもかしこもが法や規定を守ることより、自社の利益優先で不正を行い、犯罪を犯すことに無頓着になっていることが恐ろしい。

 トンネル内壁の数値不正、不良工事を見抜けなかった責任は発注者の県にもある。浅川組から提出された工事資料を点検もせず受理していたばかりか、本来必要な136回の段階確認を初期段階で6回しか行っていなかったのだから、公共事業も業者任せで、とにかく完成すればいいという気持ちしか担当部署になかったということだ。
 この国は腐り切っている、というのは言い過ぎだろうか。
                           (6)に続く

#八郎山トンネル施工不良工事


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