不正列島ニッポン(3)〜横行するデータ改ざんに手抜き工事(3)
〜安全性能の不正が次々に発覚


安全性能の不正が次々に発覚

 問題は単に燃費数値の改竄だけだったのかどうかだが、17年に発覚したSUBARUと日産自動車の不正は「完成車の検査」で、燃費の誤魔化しよりは質が悪い。
 本来、検査は有資格者しか行えないが、あろうことか資格を持たない無資格者が検査を行い、パスさせていたわけだ。これでは車に対する信頼も何も持てはしない。
 言い変えれば問題車をそうとは知らされずに買わせられていたことになり、こんな恐ろしいことはない。
 本来なら集団訴訟に発展してもおかしくないと思うが、そうした動きはこの国では起きなかったようだ。

 自動車メーカーで不正が相次ぎ発覚すれば、各社とも自社内のチェック体制を見直すに違いない、と思うのは楽観的で、各社とも見直すどころかさらに不正の実態が次々に明るみに出だしたのだから信頼は地に落ち、経営破綻したところがあってもおかしくない。
 ところが、そうなったところはなかった。その頃、私は三菱自動車は買うべきではないし、この会社は存続すべきではないと言ってきたが、三菱グループが支えて存続させてしまった。それが果たしてよかったのか悪かったのか。

 もし、この時、不正問題で1社でも潰れていれば、他山の石で各社とも自社の体制を全面的に見直し、その後不正が横行することはなかったのではと思うが、残念ながらそうはならなかった。

 「不正」という言葉は事の重大さを矮小化する。「ちょっと数字を盛った程度ではないか」という印象を内外に与えてしまう。
 だが、ブレーキの制動力を誤魔化していたと聞けば驚くに違いない。この時明らかになった日産自動車の不正はブレーキだけではない。ハンドルもスピードメーターも、その他6項目で安全性能を満たしていない可能性があったのだ。これらは直接、生命に関わる部分だ。
 もちろん該当する車はリコールされたが、リコールすれば済む話ではないだろうし、自動車メーカーは発売後のリコールが他の製品に比べて多すぎる。たしかに電化製品などと同列に論じられないかも分からないが、法令順守、安全性に対する認識、自覚が薄いのは間違いないようだ。

 「前覆後戒(ぜんぷくこうかい・前車の覆るは後車の戒め)」という諺があるが、自動車メーカーの辞書にはこの言葉はないようだ。「対岸の火事」と他人事(ひとごと)のように考え、自社の戒めとすることもなく、首をすくめて嵐が通り過ぎるのを待つだけという体質が染み付いているから「前車の轍を踏む」わけで、その後次々に不正が明るみに出る。

 日産自動車だけでなくSUBARUの不正も同じだった。「アイサイト」など安全面を重視した機能を売りにしているSUBARUだが、その裏ではブレーキやハンドルの制動力を誤魔化していたことが分かっている。
 しかも、そのやり方があまりにも酷いのだ。例えばブレーキの制動力確認検査では本来ブレーキペダルだけを踏むのが当然だし、消費者は当然そういう規定に則り検査されていると思っているはずだ。
 ところが同社の検査ではブレーキペダルだけで所定数値に届かない場合にサイドブレーキも一緒に引いたり、サイドブレーキの性能認定ではブレーキペダルも併用して制動力を数値内で納めていたことが分かっているがスズキも同様の手口で不正を行っている。

 ブレーキに関する不正は昨日今日行われたわけではなく、SUBARUの場合、1997年から行われていたという内部証言もあるし、この種の不正は1社や2社ではないから業界ぐるみと思われても仕方ないだろう。

 問題なのは不正が明るみに出た後、社内をチェックし、二度と起こさないと誓った後も不正が行われ、次々と明るみに出たことで、本当に見直しをし、体質を改めたのかどうかが疑われる。
 なぜ、同じことが繰り返されるのか。原因は色々あるだろうが、一つはっきり言えることは、トップを始め不正を行った部署や直接の担当者が責任を取らされなかったことだ。減給とか部署替え程度は甘い対応でしかない。
                    (4)に続く


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