後継者へのバトンタッチはどのようにすべきか。(5)
〜バトンタッチに失敗する本当の理由〜


バトンタッチに失敗する本当の原因

 「権力は簒奪すべし」と言っても中小企業の若手後継者に、そうした意気込みと実力があるかといえば、残念ながら答えは「ノー」だろう。
 これは企業人に限ったことではないが、いまの20代、30代は生まれた時からモノに囲まれて育っているから、物質欲が前の世代と比較しても低い。いわんや彼らの親の世代とは比べものにならないくらい「欲」がない。よくいえば淡泊なのだ。何事に対しても。

 本心は社長になどなりたくないのかもしれない。
かといって他にやりたい仕事があるわけでもないし、他社に勤めてみてもそこで能力を発揮できるほどでもなかった。まあ、そこそこ程度にはやれたが、別段面白いわけでもない。そうかといって親から後を継ぐように迫られたわけでもない。ただ、なんとなく親や周囲の気持ちを察し、他に興味を惹く仕事があるわけではないから親の会社でもいいか、という感じで家に帰り、入社しているパターンが多い。
 親の方も息子(娘)に後継を期待したわけでもなく、まあできることなら継いでくれればよし、そうでなくても仕方がない、とある種の「物わかりのよさ」をみせている。
 要は親子双方がともに事業の継承に強い意欲を見せてないというのが最近の特徴である。
 実はこのことが弱い後継者を育ているのだが、そのことに気付いていない。「子供の人生だから」という言葉で、積極的に子供の人生に関わろうとしていない。恐らく自分の会社に入社させるにしろ、しないにしろ、真剣に向き合って話し合ったことはないに違いない。子供の方も親、特に父親に自身の進路で真剣に相談したことはないのではないだろうか。
 詰まるところ、双方がセーフティネットのような感覚で、経営する会社をとらえているのだ。
 バトンタッチに失敗する本当の原因はここにある。

 さて、もう一度、後継者側に話を戻そう。
いざ入社してみると、それはそれでそこそこ居心地がいい。周囲からはいずれ後を継ぐのだろうという目で見られ、最初の内こそそうした周囲の目を重荷に感じもするが、その内それにも慣れてくる。
 気が付けば社内で役職が上がっていき、他人からは敬語を使われだす。しかも、役職の割には仕事も責任もはるかに楽だ。周囲がお膳立てをし、サポートしてくれているからなのだが、そのことに気付かない。あるいは気付いていても、だからといって「一兵卒」に戻り、汗水垂らそうとは思わない。結局、周囲が敷いてくれるレールの上をなんとなく走っている。こういう後継者を30代によく見かける。

 もう一つ、若い後継者に共通していることがある。
彼らは親や年配の古い社員よりITに通じている。インターネットを駆使して、ちょっとした情報はすぐ集めてくる。だから、何でもよく知っているように見えるし、その部分では古い社員から尊敬もされる。それに気をよくし、ますますITに傾注する。
 それが悪いというつもりはないが、中にはITをあまり使えない親をバカにする風が見えてくることだ。

デジタルに頼り、内弁慶な若い世代

 もう一つは情報収集がインターネットに偏り、Face to Faceでの情報収集を怠る風が見えること。これはある種の危険性を孕んでいる。インターネット上の情報はオフィシャル情報で、誰でもが知り得る情報だということに気付いていない。誰でもが知り得る情報にそう価値はない。
 対して親の世代は人の繋がり(人脈)を大事にするから、Face to Faceでの情報が入ってくる。こうした付き合いが人間形成と仕事上で大きな役割を果たしていく。それを知っているから親の世代はできるだけ人に会おうとする。
 対して子の世代はインターネット上で情報収集する効率を重視する。勢い外部との接触が減る。人と接するよりパソコン画面と接する方が好きだから、「社内引き籠もり」に近くなる。
 社内の人間と接している限り、自分がトップでいられる。代々の徳川将軍と同じである。
 外部の人間と接すると自分の能力を思い知らされるが、社内にいる限りは常に自分が絶対的存在でいられる。だからますます外部の人間と接しなくなる。いわゆる内弁慶だ。

 3つめは世代を超えた交流が少ないこと。
30代に限ることではないが、同じ年代で「つるんで」行動するタイプが比較的若い世代に多く見かけられる。どうもこれは全社会的傾向らしく、政治の世界でも「お友達内閣」を作り、都合が悪くなると病気と称して突然退陣した総理大臣がいたのは記憶に新しい。
 同じ年代の気の合う仲間と行動したがる傾向は世代を超えた交流を避けることにつながり、世代を超えた知恵が受け継がれなくなる。これは経営者にとっては致命的欠陥になる。甘言を弄する者の意見を重視、諫言する者を遠ざけることにつながるからだ。
 これではグローバル戦国時代を生き抜くのは難しい。

 もし、グローバル戦国時代を生き抜いていこうと思うなら、もっと積極的に外部との接触を図るべきだ。社外の人に社外で会うように努め、とりわけ異業種の人と交流し、外部の勉強会などにも積極的に参加すべきだろう。
 30代は社内に居るより積極的に社外、海外に出ていき、ユーザーの意見などを懸命に聞くべきだ。
                                               (6)に続く



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