N の 憂 鬱-22
〜バリ封鎖と逆封鎖、法文本館の激しい攻防戦(10)
夜間の機動隊出動 (続き)

 その頃、下では学長達が協議していた。
 このままいけば法文館内の全共闘と民青を中心とした封鎖解除派の間で内ゲバが起こるのは目に見えている。そうなるとかなりの怪我人が出るだろう。できれば、そうした事態は避けたい。そこで、この際、機動隊の導入を要請しようかと思う。

 そうですね。できれば自主解除か、我々の手で解除したかったのですが、ここまで騒動が大きくなり、市民にも知られることとなっては問題解決を急いだ方がいいでしょう。機動隊導入はやむを得ないでしょう。

 夜11時、県警本部に大学から機動隊の出動を要請する電話がかかった。
県警本部はすでに機動隊をいつでも出動できる体制で待機させ、刻一刻と現場の私服警官達から状況を知らせる報告を受けており、日付が変わる前に要請がなくても独自の判断で事態収拾に乗り出すつもりにしていた。
 そこに大学側からの出動要請が届いた。それによって県警は「学内問題に不当介入」という批判を避けることができ、「大学側の要請による出動」という大義名分が出来た。
 夜間の出動はしない。それが従来採ってきた方針だったが、大学の要請があったことでもあり、事態を検討した結果、緊急性があると判断したから「事態収拾のため」従来の方針を変更し出動した、との言い訳が立つ。

 県警本部長は即座に出動を命じた。整列した隊員の顔に緊張が走る。デモ行進の規制等で出動したことは過去にもあるが、このような場面で、しかも夜間の出動は初めての経験であり、何が起きるか分からないという不安が過った。
 隊員のそういう気持ちを察してか本部長も出動隊長も訓示は短めだった。手荒な真似はするな。窮鼠猫を噛むと言われるように、追い詰められると何をするか分からない。夜間だけに特にそうだ。十分気を付けてかかるように。
                             (次回)に続く
 


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