N の 憂 鬱-19
〜夜明けに襲撃してきた防共挺身隊(3)


▽学長室の占拠、評議委員達を軟禁

 日を追うごとに民主化行動委員会を名乗る民青と全共闘系との対立は互いに暴力行為を伴うほどに激化していった。愛誠会・全共闘の学内デモ、授業阻止闘争はほぼ毎日のように行われ、大学側に対し学長出席の大衆団交を再三要求してきたが、大学側は拒否の姿勢を変えず応じる気配はなかった。

 事態の進展は見られないまま大学当局、民青系、全共闘系の3すくみ状態が続く中で、9月25日、愛誠会は全学討論集会を開催。学長の団交への出席を要求するが大学側は今回も拒否の姿勢を貫いた。
 それは堂々巡りみたいなもので、学長等は大衆団交という名の下に大勢の学生の前に引きずり出され、詰問されるのは中国の文化大革命で紅衛兵により「走資派」と目された幹部達が赤い三角帽子を被せられて自己批判を迫られる光景を想起させただろうし、東大等で総長、学長が団交の場で学生に頭を小突かれたりしているニュースを見聞きしているだけに、そのような扱いを受けるかもしれないことへの恐れと、彼らの尊厳が踏みにじられることが耐えられず、学生主催の集会、特に愛誠会・全共闘が主導する集会へ敢えて出席しようとする者は学長ならずともいなかった。

 全学討論集会への学長出席拒否は今までの流れからある程度予測されたことであり、その場合、学長室に座り込み、有無を言わさず団交への出席を促す。
 愛誠会・全共闘の主要メンバーは事前にそう決めており、予想通り学長他は団交への出席を拒否し現れなかった。
 そのことを確認した直後、後ろの方で誰かが叫んだ。
「学長が出て来ないなら来るまで学長室に座り込もうぜ」
 その言葉を合図に全共闘と中核派合わせて10人ほどが学長室になだれ込んだ。それを見た集会参加者10人余りも後に続き、中に入り切れない集会参加者は学長室周辺を取り巻き気勢を上げる。

 「これはえらいことになったな」
 本部事務局棟に全共闘系学生がなだれ込むと、それまで集会への出席拒否を貫き姿を見せなかった教官達が少し離れたところから様子を窺うようにキャンパスに現れ出す。
 「これはまずいですね」「まさか本部事務局を占拠するとは」「あそこまでやるとは思いませんでしたね」「扇動しているのは一部の学生でしょ」「困りましたね」などと互いに言葉を交わしながら遠巻きにしていたが、数が増えると人間は少し大胆になるもので、少し本部事務局等に近づいてきた。
 そのうちハンドマイクを持って来るようにと言われた職員がハンドマイクを持って来ると、青野学部長が受け取り「占拠学生」に向けて退去を促しだした。

「何を言ってんだ! 学長はどうした」
「そうだ。熊山を呼べ! ここに連れて来い!」
「熊山はなぜ出てこないんだ」

 それに対し民主化行動委員会を名乗る民青系が「占拠反対」「暴力学生は出て行け」と応酬し、それをどっちつかずのノンポリ学生が遠巻きに眺めながら「熊山学長、出て来ーい」と叫んだり「暴力学生は出て行け〜」とてんでに叫ぶ。
 飛び交う怒号を聞きながら、本部事務局占拠に批判的な声が勝っていると感じ少し安心したのか、青野学部長他6人の評議員が「冷静に話し合おうじゃないか」と本部事務局棟の方に少し近づいてきた。
 それを見た全共闘系の学生がワッと彼ら7人を囲み、そのまま隊列を組んで本部事務局内に再び入ったので、周囲を囲まれた青野学部長達はその場から逃げることが出来ず、そのまま彼らとともに本部事務局内へ入らざるを得なかった。

 そこで待っていたのは愛誠会・全共闘による吊し上げとも言える激しい質問攻めだった。
「なぜ機動隊を学内に入れたのか」
「機動隊導入についてどう思っているのだ」
「抽象論はいいんだよ。個人として、どう考えているんだよ」
「大学立法反対と言いながら、管理体制をすでに先取りをしているではないか」
「学長はなぜ我々の呼びかけに応じないのだ」
 代わる代わる口々に詰め寄られ、説得に来たつもりの学部長以下評議員はほぼ軟禁状態での吊し上げに額に汗をにじませ、次第に顔色が悪くなる教官も出て来、少し休ませてくれと訴える。
「何を言ってんだ。仮病を使って逃げる気だろう」
「いや、枡田先生は元々入院されていたのを、今回病院から駆け付けて来られたのだ。病院に返してあげなさい」
 教官達7人が学長室で缶詰になって2時間近くが経過していた。見るからに体調が悪そうだし、これ以上彼を留めておくのは人命に関わるかも分からない。
 そう判断した占拠学生達は申し出を受け、午後8時40分、枡田教養部長を解放した。
                                  (4)に続く
 


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