N の 憂 鬱-16
バリケード封鎖と機動隊導入(7)


  ▽機動隊に包囲され寮へ逃走

 熊山学長は愛誠会ほか学生自治会の「機動隊導入反対」の声を無視し、同日午前11時半、県警に機動隊出動を要請していた。
 それを受けて県警本部は翌2日早朝の午前6時、県警本部機動隊と四国管区機動隊合わせて約500人を20台の車に分乗させて出動させる物々しさ。
 出動根拠はすでに30日夜に大学当局から県警に出されていた学長名の出動要請文と傷害事件の現場検証というものだが、現場検証にしてはあまりにも大掛かりな上に、県警本部だけでなく四国管区機動隊まで呼び寄せ、500人という大部隊での出動という物々しさを見れば、今回のことで急遽出動したわけではなく、前々から周到に準備していたことが窺える。

 バラバラバラっとトラックから降りた機動隊は片手に盾を、もう一方の手に警杖を持ち正門前に整列するや否や号令一下、駆け足で大学キャンパスを取り囲んでいった。
 その様子から「現場検証」とは名ばかりで、占拠学生の排除と逮捕を目的にしていたことが分かる。

「機動隊が出動したぞ」
 本部事務局を占拠していた学生達に第一報が知らされた直後、外にいた全共闘系の仲間が飛び込んで来て「すぐそこまで来ている。逃げろ」と叫んだ。
 その声を聞き慌ててバリケードから外に出、正面の塀を乗り越えて走った。
「寮へ行け」「寮まで走れ」
 日頃から寮生と仲よくしていたり寮に出入りしている者は寮を目掛けて走ったが、寮の場所をよく知らない者もいる。寮へ行けと言われても、方向さえままならない。取り敢えず前を行く連中に付いて塀を乗り越えて走るが、方向を変えて自分の下宿に逃げ帰る者もいれば、下宿は危険と考え友達の下宿を目指す者もいる。蜘蛛の子を散らすようにという表現はこういう状況を指すに違いない。
 機動隊が現場に到着したのは彼らが脱出した5分後で、まさに危機一髪の脱出劇だ。もし脱出が5分遅れていれば、機動隊にキャンパスをぐるりと取り囲まれ全員逮捕されていたに違いない。

 寮までは約2kmの距離。表通りは危ない、と裏道を走り、息せき切ってM寮に雪崩れ込み、その場に倒れ込んだ。
 寮には自治会があり、それまでも寮費の値上げ反対や寮の自治権獲得などの闘争を闘っていたし、愛誠会執行部を新左翼系が占めるようになってからはなおのこと連帯して闘争を行っていたから、全共闘、愛誠会と寮自治会組織とは親しい関係にあり、両組織に所属しているメンバーもいたし、全国的に見ても寮が活動家の隠れ家的存在になっている例は多い。

 そうは言っても寮は活動家のものではないし、活動家のために提供しているわけではない。そこに雪崩れ込んで来られてM寮が活動家の拠点と見られるのは困るし、機動隊がM寮に入り込んで来たりすると困る。
 そう考える寮生は一定数いた。特に女子寮の方には運動に無関心な学生が多く、予期せぬ闖入者に戸惑いを隠せず、できれば自分達を巻き込んで欲しくないと考えていた。

「寮生以外の学生が寮に入り込んで来るのは困ります。私達まで変な目で見られるし、第一、寮規約違反ではないですか。私達女子寮の学生は部外者に出ていってもらいたいと考えています」

 女子寮の執行部から「寮に逃げ込んできた封鎖学生の受け入れ拒否」の申し立てを無視することは出来ず、男子寮、女子寮合同の寮生大会を緊急に開き、その場で対応を決めることで、女子寮側を取り敢えず納得させた。

 寮生の数は男子寮の方が多かったが、反全共闘の民青(みんせい)系や寮生外の学生が寝泊まりすることで寮が新左翼の拠点のようになることを嫌がる学生もいたため、緊急寮生大会を開いてはみたものの両勢力が拮抗し、夜遅くまで議論を続けたが意見の一致を見られず、とうとう決を採って決めようという民青系の声に押され、これ以上の引き延ばしはムリと判断し、全寮生による投票に望んだ。
 結果はわずか3票という僅差だったが、闖入者は寮からの退去を求められ、その夜、闇に隠れて出て行った。
                            (次回)に続く


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