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N の 憂 鬱-16
〜バリケード封鎖と機動隊導入(6)
封鎖解除される


  ▽封鎖解除される

 本部事務局占拠を運動の次なる転換点にしようとしたため、全勢力を本部事務局に向け、それまでバリ封鎖していた法文学部本館に残っていたのは2人だけだった。とはいえ外部から中の様子を垣間見ることはできず、人数を確認することはできない。

 本部事務局占拠の翌7月1日。前夜の騒動をマスコミ報道などで見聞きした学生達が早朝から学内に集まってきた。
 夜が明けると法文学部本館内部の様子も窺い知ることができ、残っているのは少人数ではないかと2、3人寄っては顔を見合わせて話している。

 全共闘の大半は大学本部の方に行っているのではないか。どうも法文本館に残っているのは少ないと思う。そうだな、先程から様子を見ているんだが残っているのは数人みたいだぜ。今ならバリケードを撤去できそうだぞ!

 遠巻きに様子を窺っていた集団の中から数人が法文本館に少しずつ近づいていく。だが、中から威嚇する動きはない。
 それを見て職員の数人も近づくが、相変わらずバリケード内は静まり返ったままだ。
 よし、撤去しろ! 誰かが叫んだ。それを合図に教職員に民青(みんせい)、体育会系学生など約200人程が法文学部本館に押しかけ、玄関入り口奥に積み上げられた机や椅子を次々に運び出し始めた。
 その様子は本部事務局を占拠している連中にも伝わったはずだが、そちらから部隊が応援に駆け付けてくる気配はない。一気に形勢は逆転し、それまで遠巻きに様子を窺っていた「一般学生」の中からもバリケード撤去に加わる者達が増え、あっという間に封鎖が解除され、歓声が上がった。
 バリケード内にいた2人は直前に脱出し、学外へ逃れていた。

 法文本館の封鎖解除を聞き、熊山学長はホッとし、思わず自分の首を撫でた。これで首の皮1枚は繋がったかという思いが無意識に手を首の後ろに回したのだった。

 この機に暴力学生を排除し、二度と校舎を占拠したり、学内で暴力沙汰を起こさないように極左学生を徹底的に排除したい。
 そう考えた熊山は7月1日午前11時、再度、評議会を開催した。

 法文学部本館の封鎖は教職員の力で解除したが、まだ本部事務局は暴力学生によって占拠されています。このまま占拠されていると次年度の概算要求事務にも支障が出て来る。ここは機動隊の力を借りて早めに占拠学生を排除したいと考えていますので、皆さんに協力をお願いしたい。

 この学長提案に対し、評議会のメンバーはさしたる反対もせずに賛成。これに反応したのが愛誠会と県警本部で、愛誠会は同1日、緊急学生大会を開催し、次のような点を決議し決定した。
 1.封鎖を実力行使によって解除しない
 2.機動隊導入は全学的な意思統一がなければ認めない。

 一方、県警本部は法文学部本館が教職員、学生の手により自主解除されたことで、一般学生は封鎖に反対していると認め、機動隊出動の第1障壁は取り払われたと考え、大学側から出動要請があった場合には出動できる準備をし待機しておくよう伝えた。

 こうした動きは全共闘側にも伝わり、機動隊が導入されそうだと学内の緊張は一挙に増す。
 バリケード封鎖には反対していた学生の中にも機動隊導入に反対する者も多く、「機動隊導入反対」の声が上がる。
 全共闘・愛誠会は本部事務局に立て籠もっているメンバー以外が集まり、ヘルメットを被り「機動隊導入反対!」のシュプレヒコールを繰り返しながら学内デモを繰り広げる。
 そうした様子を遠巻きに眺めながらウロウロする者、巻き添えになってはかなわないと学外へ退避する者、情報収集に走る者など、それぞれがてんで勝手に動き回っているような有様だが、誰の目にも緊張と不安が宿っていた。
                             (7)に続く
 


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