N の 憂 鬱-16
〜バリケード封鎖と機動隊導入(3)
法文本館に続き大学本部を占拠


   ▽法文本館に続き大学本部を占拠

 実家で1か月ほど過ごし、久し振りに戻った学内は懐かしくもあり、どこかよそよそしくもあった。よそよそしさの正体は見慣れない顔と増えたヘルメットの色で、それまでは赤ヘル1色と言ってよかったヘルメットに、白色に「中核」と書かれたヘルメットが加わり、青色や黒色のヘルメットが数は少ないながらも見え、見慣れない顔が増えていた。
 大学を離れた期間はわずか1か月あまりに過ぎなかったが、その間に情勢は大きく動き、連日のように学長に大衆団交の場への出席を呼びかけ、学内でスクラムデモ、ジグザグデモが繰り返されていた。
 一方、法文学部本館のバリケード封鎖に反対する右翼系や日共下部組織の民青系が設立した「民主化行動委員会」が中心になって集会を開き「バリケード封鎖解除」を声高に訴えるなど全共闘・愛誠会(法文学部自治会)との対立を鮮明にしてきた。

 工学部に巣食う右翼学生による正門前の大きな立て看が壊され、それを防衛する全共闘系の学生による防止の座り込みが行われたり、学内で様々なビラが撒かれたりと、日増しに全共闘系と反対派の対立が激化していった。
 中には「バリケードの意味するもの」と題し、次のように問いかけるビラも配られた。

 「現在の大学に学生、教官、職員の意見が反映されているだろうか。国大協路線、近代化路線、立命館方式等々を考える場合、まさに否と言わざるをえない。我々の意見が反映しない、自治のない大学において、我々の唯一の自己表現は拒否しかないことを確認しなければならない。バリケードは消極的な授業放棄に対して、積極的な形として在る。矛盾だらけの現実を拒否することによって”批判する自己”を見出さなければならない。そして批判する自己をもって、大学を改革していかねばならない。従って大学立法粉砕闘争を闘う時に、まず体制に埋没している自己を認識し、自己変革をなしとげなければならない。バリケードはまさしくそのことを我々に提起していると言える。理学共闘会議」

 各学部・学科・教室ごとに共闘会議が設立され、それぞれがビラを作成し配布していた。
 法文学部本館のバリケード封鎖は問題意識の薄い学生達に楔を打ち込み、他人事(ひとごと)のように模様眺めをしている彼らに、このまま何もなかったかのように学生生活を送るのか、「矛盾だらけの現実を拒否」し、「自己変革をなしとげ」るのかと鋭く問いかける内容だった。

 一方の勢力が力を増せば、それに対立する勢力も力を結集し、潰しにかかってくるのはどのような場面でも同じで、その周囲を模様眺めの連中が取り巻き、その時々で勢いがある方に流れていく。
 中間層、無党派層、付和雷同など色々と呼ばれるが、この層がどちらに流れるか、言い換えればこの層をいかに引き付けるかによって勢力の優劣が決まる。
 勢力の拡大を目指すなら中間層の引き込みを図るべきだが、中々そうはならないのが現実で、少数派は結束を固めるために内に向かうベクトルが強く働き、外へ向かおうとするベクトルに対しては「日和見主義」等の言葉が投げ付けられる。弱さを指摘されたくないため、逆に過激な行動に出てしまうというのは集団ではよく見られるし、過激な意見に引きずられるのも運動の過程ではよくあることだ。

 法文学部自治会・愛誠会と全共闘による法文学部本館のバリケード封鎖が行われた当初、そのバリスト(バリケード封鎖ストライキ)が期限付きだったこともあり反対派より容認派の方がムード的に少し上回っていた。
 その一方で、体育会系右翼と民青が中心になった封鎖反対派も結集力を高めていき、全学が一致団結して大学立法反対運動に邁進というには程遠く、次第に大学当局+民青・体育会系右翼による反対派が愛誠会・全共闘に対立するという構図が出来上がり、両勢力の激しいぶつかり合いが見られだした。
 この頃になると全共闘系の学内デモもスクラムを組んで行うスクラムデモ、隊列を組み前の人間の腰ベルトをしっかり握り、屈んだ姿勢でジグザグに突進していくジグザグデモが当たり前になっていたが、どこからか持ち込んだ角材を担いで示威行動をする姿も見られた。

 6月30日夕、全共闘派学生はバリケード内に数名を残し、残りが隊列を組んで大学を出発して街頭に繰り出した。
「大学立法粉砕!」と叫びながらデモ行進をし、時にはジグザグデモもしながら繁華街の大通りアーケード内ではビラ配りとカンパの呼びかけも行ったが、進んでカンパに応じてくれる人も多く、エンプラ佐世保寄港反対闘争くらいから市民の感情が変わってきたのを肌で感じられるようになっていた。
 街頭デモを終え、学内に戻ってきた時、工学部4回生から哲学に転学部してきたGが叫んだ。
 「このまま法文本館を封鎖しているだけではダメだろう。学長は大衆団交を拒否して一向に顔を見せないではないか。大学側に大学立法を粉砕する気が本当にあるとは思えない。こんな生温いやり方をいつまでも続けるのではなく、一気に大学の中枢本部を占拠し、大衆団交の場へ学長を引きずり出そうじゃないか」
「そうだ。そうだ」「異議なーし」
「よーし、本部占拠に向かうぞ」
「おー!」
                                  (4)に続く
 


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