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急ぎすぎるベンチャー達を待つ落とし穴(2)
    〜上場という魔物に惑わされるな〜


 資金難、おだて、甘い誘惑、研究開発優先など伸び盛りのベンチャーを待ち受ける落とし穴は多いが、それでも正面から来る落とし穴はまだ身構えることが出来る。ところが、穴の上にお金が置いてあったり、褒め言葉を書き連ねた紙が置いてあると、つい拾おうとして落ちてしまう。いわゆる「ほめ潰し」で、これこそが危険な罠ということは「急ぎすぎるベンチャー達を待つ落とし穴(1)」で記した。
 しかし、最も危険な罠はその後に待ち受けている「上場」である。

4.拡大期こそ最大の危機

 不思議なことに最大の危機は常に拡大期にやってくる。
売り上げが伸びている時、事業が拡大している時に失敗の落とし穴などあるはずがない、と思われそうだが、実はそこにこそ陥穽、最大の危機が潜んでいるのだ。ライブドアしかり、村上ファンドしかり。皆、絶好調と思われた時に陥穽に落ちている。

 なぜなのか。1つは拡大期にはどこか無理をしている部分があるからであり、2つめには慢心だ。そしてブレーキをかける難しさである。

 例えばライブドアは球団買収に動いた時をきっかけに粉飾決算をした。
宮内元取締役等には粉飾との認識があったようだが、それを取締役会で法令違反になると明確に主張できなかった。
そこでブレーキをかけていればライブドアの今日はなかったはずだが、フルスピードで走り出した車にブレーキをかけるのがいかに難しいかということだ。

 それにしても経営者に諫言を聞く耳があるかどうかが大事だ。
往々にして部下の言うことは聞かないものだが、少なくとも折に触れ諫言してくれる人を外部に持っているかどうかで随分違ってくる。

5.上場こそ最大の魔物

 そして最大の魔物は上場であり、上場前後に落とし穴に落ちるベンチャー・中小企業が意外に多い。
 それなのにベンチャー経営者はなぜか「上場」を狙いたがる。
もう少し冷静に、上場をする必要が本当にあるのか、仮に上場したとして、それを維持できるだけの体力が本当にあるのか、をよく考えるべきだろう。
 上場はゴールではなく一通加点にしか過ぎないのに、まるでゴールであるかのように錯覚し、上場を追い求める。
結果、上場時の株価が最高値で、以降値下がり一方ということになる。
最近の上場ベンチャー株はほぼ軒並みそうなっている。

 企業が上場する時、いくつかの理由がある。
 イ)資金調達
 攻めの経営をしている時で、出店費用、工場の新増設、製造設備投資、M&A資金などの調達。

 ロ)知名度アップ
 以前は上場理由の一つにこれを挙げるところが比較的多く見られた。
曰く販売促進のために、曰く人材確保のために。

 ハ)創業者利益の確保
 金融機関から融資を受ける際、日本では経営者の個人保証を求められることが多い。
事業を拡張すればするほど債務保証が増えるという矛盾で、ベンチャー・中小企業の経営者は債務保証だらけである。
この連鎖を断ち切るために会社を上場し、そこで得た創業者利益で債務を返済しようと考えるのだ。
逆に言えば、上場せざるを得ないのであり、ここに上場を焦る気持ちも生まれ、最大の危機が待ち受けているのである。
 この間の事情については元オーケー食品創業者・片山氏にインタビューした記事に詳述しているので下記3点を参照して欲しい。
 「元オーケー食品創業者が失敗の原因を語る」「私はなぜ店頭登録を急いだか」「VCが入ると上場を急がされ、ペースが狂う」

上場のための上場では未来がない

 ところで、筆者にとって不可解というか上場目的がよく分からないのが福岡に本社を置くパソコン専門量販店A社である。
 同社が上場したのは今年2月、ジャスダック市場である。
初値は3,720円。事前予想の4,500〜4,600円を下回ったとはいえ、公募価格の3,100円を20%も上回った株価であり、市場では高く評価されたことになる。

 しかし、筆者には同社の上場後の成長戦略が見えない。
同社にとって上場は通過点ではなく目的ではないか。
そう思えてならないのだ。
もし、そうなら上場を維持していくことは難しいのではないか。

 以下、疑問点を列挙してみよう。
 1.まずパソコン(PC)販売はすでに6、7年前から値引き競争が厳しく利益が取れない商品になっている。
そのためPC販売だけで今後成長していくのは難しい。
 2.競合相手が全国に多い。
とりわけヤマダ電機、コジマ、ベスト電器、ビックカメラ、ヨドバシカメラなどと直接競合することになるが、バイイングパワー、資金力からいっても価格競争では勝てない。また、これら競合各社に価格競争を仕掛ければ利益率はますます悪くなる。
 実際、同社の売上高は平成13年から16年3月期まで毎期前年割れが続いており、それは価格競争に巻き込まれた結果である(上場時の会見)。

 3.価格競争なしに生き残るためには独自商品を持つ必要がある。
同社の場合はプライベートブランドPCと中古PC販売であり、ともに利益率は新製品よりいい。
ただ、中古PC分野にはすでに他社も進出しており、差別化は図りにくくなっている。
 強みは自社ブランドPCの販売であり、同社のパソコン販売の5%を占めているが、弱点はブランド力が弱いことと、部品を海外で調達し自社で組み立てているため為替の影響を受けやすいことである。

 4.上場で調達した資金で今後、西日本以東へ店舗展開していくつもりのようだが、九州外では知名度に欠けるし、いま以上に競争が激しい地域への出店は利益率が下がりはしても上がることはない。

 こう見ていくと今後の成長戦略に疑問を感じずにはいられない。
実際、上場後の中間決算見通しで早々と下方修正を行った。2月の上場で5月に下方修正ではあまりにも早すぎるというより、経営計画に甘さがあったのではと思わざるを得ない。
 株価も上場後下がり続け、一時1,900円台まで下がったが、いまは2,000円前後で推移している。やはり上場は魔物、という筆者の予想が当たらないことを祈りたい。


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