平成4年にはキノコ事業が行き詰まりを見せ、翌年、片山氏は責任を取る形で社長を辞した。その後、キノコ事業を閉鎖するよう、当時の部下だった常務(西銀出身の前経理担当部長)に何度も言ったが聞き入れられず、結局、オーケー食品工業がキノコ事業部門を廃止したのは平成12年9月。この時、減資及び増資を実施して資本金を23億4,397万円に変更。翌13年8月には再度減資をし、資本金を18億5,907万円に変更している。こうした「特殊なやり方があるはずだから、キノコ事業を早く閉鎖していれば、もっと赤字は少なくて済んだ」と片山氏は言う。 15億5,000万円を
半ば強制的に寄付
−−お辞めになる直前頃に社員のボーナス資金にと15億円出されていますね。あれはどういういきさつですか。
片山 私が社長を辞めて以後、西銀の連中が一つも会社のためになるようなことをしないから、これ以上やってももう潰れる以外にないなというような気持ちが一方でありながら、里子に出した子供がメチャメチャにされているような気持ちで非常に辛かったんです。
平成2、3年に発行した外債30億円の償還期限がたしか平成7年に来たと思いますが、株に転換されてなくて、ほとんど返さなくてはならない状態だったわけです。結局、その資金を西銀が貸さなければ返せない。そういうことで私の株を狙ってきたわけです。
当時、1株500円くらいしていたと思います。家族名義のものも含めると、全部で600万株くらいあったんです。その株を「半分でいいから出してくれ」と。会社に行くと毎日毎日その話ばかりですよ。入れ替わり立ち替わり営業担当常務などが来て、「これが実現できなければ西銀は金を貸さないから会社は潰れる」と、半脅迫みたいな話がずっと続いたわけです。
それで、私ももう嫌になってしまってね。腹を決めて、「全部売ってくれ」と。それなら半分の株は会社に寄付しようと言ったわけです。それで会社は納得したんですが、見事に私は騙されたわけです。
最後の売却段階で、よっぽどサインを拒否しようと思ったんです。結局サインをしたんですが、金額にして15億円ですよ。それを吸い取られた。まあ、その金額は会社に入ったんですけどね。
ところが、残りの約半分、250万株はいますぐには買い手もなく売れないからということで現金化されなかった。
しかし、平成9年に私も金に困って、もうにっちもさっちもいかなくなり、株を返してくれと言ったんです。もう退任して関わりなくなっているのだから、と。それは承知してくれたんですが、1株100円で売ると言うわけです。だから2億5,000万円ですね。それを家族名義の分は除いて私名義の株を会社に寄付してくれ、それが条件だ、と言われ5,000万円取り上げられた。
それが、私が5,000万円寄付したという痕跡がどこにもないんです。発表もされてない。もしかすると有価証券報告書には記載されているのかもしれないが、本来ならそんなことが行われた場合はプレス発表をするのが当たり前でしょう。
−−ということは金額にして1回目が15億円、2回目が5,000万円の計15億5,000万円を半ば強制的に寄付させられたというわけですね。
片山 特に平成9年頃はこの会社(IMB)が資金的に非常に苦しかった時期で、あの金があればそんなに苦労しなくてよかったんです。
−−最初、15億円寄付させられた時は550万全株売却を条件に出されていましたね。
片山 残りの250万株は売れなかった、と言われたんです。
−−それで株券は西銀に預けたままだったんですか。
片山 担保に取られていたんです。私が知りたいのは5,000万円を寄付したら250万株を売却して返すという条件を誰が出したのかということです。
−−最初の時に全株売却していれば、15億円は会社に寄付しても12億5,000万円は残っていたわけですね。それが2億5,000万円になり、さらに5,000万円も寄付させられてしまったわけですか。
最近では産業再生機構入りしたダイエーが中内功氏ら創業家に私財提供を求める動きもあるが、当時、九州では壽屋の創業者・寿崎氏も西日本銀行から経営陣を招き、その後追われるように会社を去っている。その後、寿崎氏は株券の所有を巡って裁判を起こしていた。株式公開後は創業者といえども株主の厳しいチェックを受けるということであり、決して安泰ではいられない。
VCには会社を
育てる能力がない
−−ベンチャー企業が失敗する段階は最低2回あると私は思っています。1回目は起業して少し注目された段階。この段階は持ち上げられ、講演その他に引っ張り回され、いわゆるほめ潰しによる失敗です。
次の段階が株式上場前後で、大体上場を急いで、あるいは急がされて失敗する。
そこで片山社長にお聞きしたいのですが、ご自分の経験を踏まえて失敗しないためのアドバイスをお願いします。
片山 日本のベンチャーキャピタル(VC)は本来のVCでないということです。
急激に伸びるベンチャーは人材不足なわけですね。そういう時、アメリカのVCは例えば財務が弱ければ財務に強い人間を持って来、営業が弱いと見れば営業に強い人間を探してきて会社に入れるから、その後簡単に会社がポシャルことがないわけです。ところが、日本のVCはジャフコでさえ人材不足を補う能力はない。つまり会社を育てる能力が日本のVCにはないということです。
自分の背丈を常に測り
背丈以上のことをしない
片山 VCから何千万という金が出てくると変な気分になると思いますよ。いままでの世界とは違うという。そういう意味では私はVCのお世話にはなるなと言っている。VCは自分の儲かることしか考えてないから、絶対確実なところにしか金を出さない。そんなものは銀行と一緒でVCではない。
VCの世話になると上場を急がされるからペースが狂ってしまう。
仮にVCから金が入ったとしても、それは単なる金で利益ではない。そこを間違わないようにしなければいけない。金が入っても単に預金が増えるだけで、それを何度でも入ってくるように錯覚してはいかん。
その金を使って何かをする場合考えなければいけないのは、それで利益が出るのかどうかということだ。
また、思わぬ資金が入ってくると、つい自分のペース、スピードを超えたことをやりたがったり、やるが、人材が伴ってないのだから、それはできないということだ。
上場したのにその直後から減益になる会社が多いが、あれはおかしい。最近はそんな会社がほとんどだ。上場したからといって会社が変わるわけでも、社長が特別に変わるわけでもないんだから、自分の背丈を常に測り、背丈以上のことをしないことです。また、背丈以上のことをしようとした時に諫めてくれる人を側に何人も置いておくことが一番大事だということです。
−−ありがとうございました。(聞き手・ジャーナリスト 栗野 良)
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