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突如、店頭に復活した「麦の薫り」、その背後に見えるのは


突如、店頭に復活した「麦の薫り」

 華々しい前宣伝をしながらあっという間に店頭から消えたイオンのPBビール「麦の薫り」。
 その背景として考えられる理由を前項(「イオンの「反省」は本当か、単なる客寄せ戦術なのか。(2)」)で4つ挙げたが、実はイオンの本音は客寄せ戦術だったのではないかという疑問はその後も消えなかった。
 だからユニクロに追随する形で低価格ジーンズを発売した時も初期ロットだけで終えるのではないかと注視したが、取り敢えず店頭からは消えていないようだ。
 ただし、現在、欠品サイズが多いとか、ボタン穴が小さく、ボタンを留めるのに時間がかかるなどという点は大目に見ての話で、だ。
 はっきりいえばやる気があるのかないのかよく分からないのがイオンの姿勢で、今春の「反省」は形だけ、あるいはイオンが反省したのは「お客様が本当に求めている商品やサービス」をすることではなく、単なる低価格志向だけではないのかと疑いたくなる。
 やることがすべて中途半端なのだ。
これは消費者に最も嫌われる態度である。
今中間決算で減収減益だったイオンの傾向は止められないだろう、と他人事ながら思ってしまう。

 さて、そのイオンに10月下旬〜11月初旬にかけて異変が起きた。
一時店頭から忽然と姿を消した、イオンのPBビール「麦の薫り」が突如姿を現したのだ。
「麦の薫り」は350ml入り1缶100円という圧倒的な安さに、サントリーのOEM生産という安心感も加わって、他社製の3、4倍の売れ行きを見せていた。
 その「麦の薫り」が夏真っ盛り、いまが一番の売れ時という8月にはイオン系全店の酒売り場から姿を消し、後に残ったのは「次回入荷予定は未定です」というお詫びの貼り紙だけだった。
 それが今回なんの前触れも予告もなく、突然、密かに店頭に山積みされたのだ。
まさに投げ売りとまでは言わないが、24缶入りケースが山積みされて売られている。
まるでいままで店頭から消えていたのが嘘のように。
 しかし、季節はすでに晩秋。いくら暖冬とはいえビールのまとめ買いに走る気はしない。
在庫があったのならなぜもう少し早く出さないのか。これではまるで在庫一掃セールではないか、と思ってしまう。

見え隠れするキリンの影

 それにしてもなぜ今頃?という疑問が消えない。
やはり背景に透けて見えるのは流通とメーカーのしのぎ合い。
そしてサントリーの後ろに見えるキリンの影である。

 イオンとセブン&アイ・ホールディングスが流通の2強なら、ビールメーカーの2強はキリンとアサヒである。このビールメーカー2強にとってサントリーのOEM路線は歓迎すべきものではない。
できればやめて欲しいと思っているに違いない。

 理由の一つは価格主導権が流通側に奪われるからだ。
それでなくても消費者の低価格志向が強く、価格の安い第3のビールに売り上げの中心が移りつつある。そこにOEM生産ビールが売れれば流通サイドからの低価格圧力がさらに増しかねない。
そうした動きだけは避けたい、というのがビールメーカー2強の本音である。

 もう一つはサントリーに追随する動きが業界内で出ることだ。
これはかなりの現実性がある。
利幅は薄いOEMビールだが、メーカーにとって悪いことばかりではない。
シェアアップは力にもなるし、流通サイドとの交渉に一定の役割も果たせる。
つまりビールで譲歩する替わりに新製品飲料の売り場確保、あるいは他飲料の取り引き拡大などで有利に進められるからだ。
 これはキリンにとって望ましいことではない。
そこにサントリー側から持ちかけられた経営統合話。
OEM生産をやめろと言ったのは想像に難くない。

 ここまではほぼ前回に示唆したが、気になるのはサントリーとキリンの経営統合話とも密接に関係している「麦の薫り」の行方である。
 突然、晩秋に店頭復活したのはなぜか。
そういえば両社の経営統合はその後進展がないようだ。
となると「麦の薫り」を消費者は今後も飲み続けられるか。
「あと1、2回の供給はありますが、その後はストップするようです」
イオンの売り場からはこんな答えが返ってきた。
 業界再編成でOEM生産ビールは短命に終わってしまうか、それとも他社からOEM生産に追随する動きが出るか。
まだしばらくはビールメーカーの動きから目が離せない。



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