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イオンの「反省」は本当か、それとも単なる客寄せ戦術か。(2)


このこと自体問題だが、もっと問題なのは「麦の薫り」が店頭から消えた背景である。一体イオンで何が起きたのか。

 売れ筋商品が突然、店頭から消えた場合に考えられる理由はいくつかある。
 1.予想以上のヒットで品切れ
 1缶100円という圧倒的な安さが予想以上の人気を呼び、初期ロットはまたたく間に売り切れ、店頭品切れ状態を引き起こした。
 仮にそうだとすれば需要が減少し始める秋以降には店頭に並んでいいはずである。
ところが、いまだ店頭で見かけないばかりか、入荷予定の張り紙すらないのはなぜか。

 2.集客目的の広告戦略に過ぎない
 当初から客集め目的の目玉商品で、実際の在庫は少ない、あるいは数量限定の売り切りセールで、当初から補充予定はなかった。
 ただし、この場合はかなり大きなリスクを抱え込むことになる。
継続的に販売されるものと思っていた消費者が騙されたと考え、イオンを信用しなくなる。その結果、消費者のイオン離れが起き、売り上げ不振は増大するだろう。
 そこまでのリスクを抱えてまでイオンが目先に捕らわれた販売戦術を採用したとは考えにくい。

 3.売れば売るほど赤字が増えた
 話題になり予想以上の売れ行きを見せたが、利幅を無視した販売価格だったため、売れば売るほど赤字か、それに近い状態になり早期に販売を中止した。

 もっとも考えられるのは、この第3の理由である。
しかし、中堅スーパーならいざ知らず、トップ企業のイオンが採算ミスを犯したという説もにわかには信じられない。

 採算度外視というならむしろメーカーの方だろう。
PBブランド生産ではよく見られることで、近年はメーカーより販売サイドの力の方が大きくなっており、メーカーは単品あたりの利幅がほとんどなくてもロットでの売上高や、小売店店との取り引き拡大のために採算度外視か、それに近い価格でも生産を請け負うことがある。
 こうしたOEM生産は業界トップ企業ではなく、3番手、4番手企業が行うことが多い。ところが、いざOEM生産を始めては見たもののなんらかの理由で自ら中止せざるを得なくなることがある。
 こういう企業は中堅どころで企業規模も余り大きくないため、ちょっとした躓きがかなりのダメージになることは結構ある。
 そこで浮かび上がってくるのが次の第4の理由だ。

 4.メーカーの都合で生産中止
 では、サントリーの立場はどうだったのか。
サントリーがビール事業に参入したのは46年前。以来赤字続きで、業界4位の立場に甘んじてきたが、2008年8月期に初めて黒字転換。シェアもサッポロを抜いて念願の3位に浮上した。
 この勢いに乗り、ここでさらにシェアを拡大しておきたい。
そう考え、キリン、アサヒが断る中で、サントリーがOEM生産に踏み切ったのである。
 であるなら、そのチャンスを自ら潰すというのは合点がいかない。
イオンのPBビール「麦の薫り」が売れてなければ別だが、初期ロットはあっという間になくなるほどの人気だっただけに、利幅の薄さだけで生産中止を決断したとは思えない。

 では、なぜなのか。
ここでも新たな疑問が湧いてくる。
そこで浮かび上がってくるのがサントリーとキリンの合併話である。
 ここでちょっとサントリーの動きを見てみよう。
イオンがサントリーのOEM生産でPBビールを発売すると発表したのが6月29日である。
ところが、その2週間後の7月13日、サントリーとキリンの合併に向けた話が進んでいることが分かった。
 それから3週間前後でイオンが「麦の薫り」を発売し、直後にサントリーは第2ロットの生産を中止。

 こう見てくると、「麦の薫り」が店頭から消えた理由はメーカーのサントリーの都合だったことが分かる。
この時期、サントリー、キリンは両者の合併で独禁法に引っかかる部分を調べており、公正取引委員会の態度を注視していた時である。
独禁法違反に問われるのを恐れて、サントリーがOEM生産の中止を突如決めたというのは分かる。
 結局、イオンの店頭から第3のビール「麦の薫り」が消えた理由は第4のサントリーの都合だと思われる。


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