汚染にまみれた生活環境が生命を脅かしている。(3)
〜水と空気はタダで安全ではない


水と空気はタダで安全ではない

 口に入れる食べ物が汚染されているのも怖いが、水の汚染はもっと怖い。すでに見たように農薬等で汚染された土壌は降雨等で地下に浸み込み、農薬等を含んだ水が川に流れ込むばかりでなく地下水となって広がっていく。
 中でも怖いのは河川等から取水した水道水が人工化学物質に汚染されるリスクだが、最近全国各地の河川や土壌からPFAS(ピーファス)が検出され問題になっている。
 PFAS(有機フッ素化合物)は水や油を弾き、熱に強く、燃え難い等々の性質があるため半導体用反射防止剤や金属メッキ処理剤、泡消火剤等の他にも私達の生活の身近なところで幅広く使われてきている。フッ素加工したフライパンは焦げ付かないと言われ最低でも1家に1個はあるだろうし、防水加工された衣類も広く出回っている。

 科学の進歩がバラ色の未来を約束するものではないということだが、放射性物質やPFASが怖いのは一度曝露すると長期間消滅せず体内に留まり続けることである。
 一度に曝露する量が微量であっても毎日曝露され続けていれば、体外へ排出あるいは消滅しないだけに「ただちに健康に被害を及ぼさない」と言われても毎日暴露され続けることで健康に害を及ぼして来る。

 これらの物質に色や匂いが付いていればまだ見分けられ、暴露するのを避けられるが無色無臭だから困る。
 しかも「あなた達の生活を便利にする味方です」「生活に欠かせないものです」「とっても役に立ちます」という善人の顔をして現れるから疑うどころか信じてしまう。

 PFASは以前から問題視されていたが、最初の頃は米軍基地の周辺で、泡消火剤が原因と見なされたから全国的に問題にされることはなかったし、メディアの取り上げ方も限られていたのは否めない。
 大きく変わったのは昨年、岡山県吉備中央町の円城浄水場の水道水がPFASに汚染されていることが分かってからだ。さらに取水ダムや上流の水を調べたところ国の基準の74倍のPFOS、PFOAというPFASが検出されたから大騒ぎになった。
 これらはともに発がん物質を含んでおり欧米では規制されている物質だが、日本の規制地は欧米の数値に比べてかなり緩いにもかかわらず、緩い数値の74倍もの数値が検出されたのだから大問題である。

 しかも検出されたのが一般河川ではなく住民に水道水を提供している浄水場からだから問題視しない方がおかしい。
 さらに問題なのは町はその事実を数年前に把握していたにもかかわらず昨年の発表まで隠匿(という言葉が悪ければ未公表で住民に明らかにしなかった)していたのだ。

 これをきっかけに全国で水道水や河川、井戸水、土壌を検査してみると米軍基地周辺だけに留まらずあちこちで検出された。
 なかには神戸市の企業がペットボトルに入れて販売している「名水」からも検出されたが、神戸市は企業名、ブランド名を明らかにしていない。
 水道水が危険だから市販の水を買えば安全というわけにはいかないのだ。

 さらに怖いのは発生源が全て突き止められていないということである。岡山県吉備中央町の場合は取水ダムのさらに上流で、企業が資材置き場として使用済み活性炭を長年放置しており、その袋が破れ、染み出て土壌や水質を汚染したことが調査で判明したが、その他の箇所では米軍基地周辺からと分かっているぐらいだが、基地と離れている場所、基地と関係ない地域の水からもPFASが検出されている。

 懸念されるのは地下水汚染である。土壌に染み出たPFASは雨水等で地下に流れ、地下水の汚染が懸念されるが、困るのは地下水脈の経路。まるで毛細血管のように広がっているから、どのような水路を辿って流れているか、どこまで広がって行くのか、発生源はどこかが分からないことだ。

 特に熊本市の水道水は阿蘇の地下水を水源としているだけに汚染箇所を特定しにくい。ということは対策が取りにくいということであり、これは熊本に限る話ではなく広島県東広島市や愛知県豊山町、岐阜県各務原市等でも地下水のPFAS汚染が確認されている。

 私達ができる唯一の防衛策は活性炭フィルターで浄水した水を飲料や食事に使うことぐらいだ。

 熊本に限って言えば台湾の半導体関連企業他が集中しつつある。半導体は製造過程で大量の水を使用する。もし、その過程でPFASに限る話ではないが有害物質で汚染された使用済み水が適切に処理されずに流れ出ればどうなるか。
 熊本県民は企業進出で喜んでばかりはいられないだろう。水俣病は決して過去の話ではないのだ。

 「水と空気はタダ」と言われた時代があったが、いまや高価なものになっている。安全な水、安全な空気を手に入れられるのは富裕層のみという時代になってきた。私達は現在、このような危機と背中合わせの生活を強いられているということはもう少し認識した方がいいだろう。

#PFAS汚染水
 


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