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資本金1億円を集めたシルバーベンチャーの「担保」は人柄(1)
 
〜赤字続きで、毎年倒産の危機


 先日、W社の創立15周年記念パーティーが福岡であった。本社は東京だが、福岡で創業した縁もあり、記念パーティーは「思い出深い創業の地、福岡」で開催することにしたようだ。出席者は100人余り。その全員が招待だから事業の好調さが窺える。
 同社の主力事業はマンション管理員代行業務。それだけに対象は都市型マンション。代表のS氏はリクルートで各事業部長を歴任し、最後は同グループのコスモスライフ専務取締役。定年退職前後の起業だからシルバーベンチャーである。普通なら退職後は悠々自適の生活。それを諦めてまで起業しなくてもと思うが、期するところがあったのだろう。

赤字続きで、毎年倒産の危機

 S氏の経歴を聞けばマンション管理のことを知り尽くした人物だから成功するのは当たり前と受け取られるかもしれないが、創業からしばらくはかなり厳しい状況が続いたようで、黒字経営になったのは比較的最近のこと。「1億円以上の赤字を積み重ね、毎年が倒産の危機」(招待状の文面)だったというから、よく持ち堪えたものだと出席者の誰もが思ったに違いない。

 いままでいろんなベンチャー企業を見てきたが、シルバーベンチャーで成功したところはほとんどない。理由はいくつかあるが、一つは若い頃とのエネルギーの違いだ。どんなに若いつもりでも30代、40代の頃に比べてエネルギーは弱くなっている。エネルギーの弱さは即、突破力の弱さに繋がる。
 もう一つは豊富な経験知。こう言えば、それはメリットだろうと言われそうだが、経験知が豊富だと「ムチャ」をやらなくなるし、ガムシャラさがなくなる。過去の経験に照らしてターゲットや市場を見るから、結果がある程度「見えてしまう」。
 そうなるとリスクを冒してやろうとはしなくなるし、見切りも早くなる。ひと言で言えば安全策に走る。
 起業分野も自身の過去の経験を生かした分野とか、趣味と実益を兼ねてなどと考えるから、事業に対する貪欲さやチャレンジ精神には欠けることがある。別の言い方をすれば「面白さがない」のだ。

 そこそこやれればそれでいいという考え方は決して悪いわけではない。むしろ強欲資本主義が幅を利かす現在では、その方が健全な考え方だとも言える。だが、それでもスタート時にはかなりの負荷がかかるし、それをはね除けるだけの馬力(エネルギー)が必要なのは車と同じだ。
 必要なのはエネルギーだけではない。目新しさを通り越した奇抜さ、ユニークさ、大化けするか大コケするかという予測不能な面白さ。こういうもの、ことを考え付き、実行に移すことができるのは残念ながらシルバー世代より若者世代の方に分がある。

 次に組織運営。大企業を定年退職した人がベンチャー企業を起ち上げると、組織形態から組織運営、人員に至るまで何から何まで違う。ここでは過去の経験が全くといっていいほど役に立たない。大・中企業なら命令一つ、指示一つで社員が動くが、ベンチャーの場合はそうはいかない。社員数10人前後というのも珍しくはない。当然のことながら、営業も含め全て自分が陣頭に立ってやらなければならない。前職では相手にしていなかったような小さな会社に頭を下げて回らなければならないこともある。その時、過去の経験、経歴は役に立つどころか邪魔にさえなる。それがためにガムシャラになれない、ムチャがやれない。その一方で語る夢だけはデカい。

アイデアはユニークだったが

 シルバーベンチャーが失敗するのは上記のような理由からだが、S氏の場合はどうだったのか。
「とにかく夢はよく語っていましたね。しかし、その当時、実現可能とは思わなかった」「いつ潰れるかと心配していた」
 創立記念パーティー出席者の何人かは壇上で概ねこのように挨拶をしていたのを聞いても、成功すると思っていた人は少ないということだ。
 夢や事業欲はあっても大企業出身で、年齢も若くはない。はっきり言えば60歳過ぎての起業なんて無茶すぎる−−多くの人がそう思っていたのだろう。

 次に事業内容。マンション管理員代行業務というのが実のところよく分からない。既存の概念にないわけではないが、先例がない。あったのかもしれないが成功例がない。
 当初の考えはこうだった。従来から存在するマンション管理人は管理会社の側に立ったシステム。S氏がやろうとしていたのは入居者に便利なサービスを提供すること。
 こうした考えのもと、一般衣類クリーニングの預かり・受け取りのほか靴のクリーニング、有機野菜の宅配などを始めた。入居者サイドに立てばうれしいサービスである。共働き世帯は増えているし、小さな子供がいる家族は買い物外出もままならない。それらの代行サービスをする管理人が常駐しているマンションは魅力的に違いない。

 都会型サービス−−当初、S氏から事業内容の説明を聞いた時そう感じた。東京なら需要があるだろうが、福岡ではどうだろう。ちょっと難しいかも。それが私の感想だったが、他の人も同じように感じていたようだ。
 このサービスは入居者には喜ばれたが、所詮代行サービスだから儲けは微々たるもの。「マージン商売だから売り上げは数パーセント。一方、人件費やなんかで出ていく金の方が多くて毎月1,000万円以上の赤字が続いた」。これでは事業は成り立たない。程なく取り次ぎ代行サービスは中止したものの、マンション管理員派遣業務は続けた。
                                               (2)に続く


 


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