思わぬ出合い、発見がある地方の旅〜縮景園の被爆樹(2)」


「済みません。原爆ドームの方向はどちらですか」
「原爆ドームですか。方向はこちらの方です」
 ボランティアガイドの人が指し示した方角は私が考えた方向とは逆だった。
「そうですか。では、あのイチョウの樹は原爆の爆風で傾いたわけではなかったのか」

 私はてっきり爆心地からの爆風で反対側に傾いたのではないかと考えたが、イチョウの樹は爆心地の方に傾いていたのだ。
 私の言葉を聞き
「爆風を直接受けて傾いたという説は間違いです」
 とガイド。
「最初の頃そういう説があったのですが、その後違う説が唱えられました。原爆投下後、中心部が真空に近い状態になり周囲の空気が中心部に吸い込まれるようになり、その影響で傾いたと今では言われています」
「なるほど。爆風を直接受けてそちらに傾いたわけではないが原爆の影響で傾いたのは間違いないということですね」
「イチョウの幹、内側半分の皮が削られたように剥がれているのが分かると思いますが、原爆の熱の影響です。焼け焦げた方の成長が悪く、そちらに傾いたという説もあります」

 ガイドをして回っている時、関係ない人間がいきなり話しかけ質問してくるのを嫌がるガイドやガイドされている側にも割り込みを嫌がる人も結構いるが、どちらも快く応じてもらえ、またご婦人2人も私の質問から思わぬ説明を受けることになり喜んでいただけたみたいだったからよかった。
 それに気をよくしたのかガイドの説明はさらに続いた。
「このイチョウは被爆樹に指定されていますが、園内には他にも被爆樹に指定されているクロマツ、ムクノキがあります」



「原爆直後、縮景園の中には多くの人が逃げて来て、そこの池に顔を突っ込んで亡くなっています。火葬場も足りず、あちこちで火葬したのですが、入り口側に駐車場になっている場所があったと思いますが、あそこも臨時火葬場だったんです」
「そうですか。埋葬者の遺骨は全部発掘されたのですか」
「ごく一部だけですが、昭和62年に1枚の写真を手掛かりに埋葬場所が特定されて64体の遺骨が発掘されましたが、まだ園内のあちこちに多くの人の遺骨が眠っていると思われます。園内を歩かれる時、この下に遺骨が眠っているかもしれないという思いを抱き歩いていただければ」
「64体の遺骨が発掘された場所は分かりますか」
「この少し先に原爆慰霊碑が建てられています。実は私もガイドをするまではこうしたことまでは知らなかったんです。関心を持っていただきありがとうございます」



 ふとした疑問から通り一遍の観光では知り得なかったり、見過ごしていただろうことを知り得たのは大きな収穫だった。だから何にでも興味を持ち質問する癖は治りそうにない。


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