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視点を変えてマーケットを見れば(1)


進む情報の同質化

 現在ほど過去の経験が役立たない時代はない。特に経営分野では。市場の変化は急速で、それにつれて経営判断に要する時間も20-30年前とは比べ物にならないほど速くなっている。情報は溢れ、いとも簡単に入手することができる一方で、情報の海に溺れ、玉石混交の情報に踊らされている姿を見かけることもしばしばだ。
 危惧しているのはIT時代になって情報、視点の同一、同質化、またはそれに非常に近い現象が起きていることだ。情報の伝達速度が昔と比べ物にならないくらい速くなったことや、次から次へと洪水のように襲いかかってくる溢れんばかりの情報量と無関係ではないだろう。
 いまや人々は情報を収集するというより、それをいかに捌くかの方に頭を使わなければならないようだ。でなければ情報洪水に飲み込まれ、自らを見失いかねない。

 やっかいなのは情報洪水に溺れながら、そのことに気付かないばかりか、自分は他人(ひと)より多くの情報を知っている、他人が知らない「正しい」情報を知っていると思っている人が存外いることだ。彼らに共通しているのはマスコミの情報を全く信じず、マスコミは真実を知らせないと思い込んでいることである。
 しかし、それは「アンチマスコミ」というマスコミの対極の見解を信じているだけで、単に座標軸をマスコミから反マスコミに移しただけに過ぎない。必要なのは複数の視点を持つことである。

視点を変えてみる

 例えば次の事実について考えてみよう。
某シューズメーカーが社員2人を未開地に派遣し、彼の地で靴が売れるかどうかを調査させた。ところが帰国後、2人の報告は正反対に分かれた。
 共通していたのは彼の地ではだれも靴を履いていない、靴を履く習慣そのものがないというものだった。ここまでは現状認識である。
 では、これをどう分析するのか。彼の地に市場があると見るのか、それとも市場はないのか。
 社員2人の意見は正反対だった。一人は誰も靴を履いていないから彼の地で靴を売るのは不可能と答え、もう一人は、誰も靴を履いていないから、もし1人に1足靴を履かせることができれば膨大な量の靴が売れると報告した。

 これは「マーケットをどう見るか」というマーケティングのイロハでよく引用される話である。前者は「市場がない」と報告し、後者は「市場の可能性」を報告したわけで、どちらが正しい、どちらかが間違っているということではない。重要なのは同じものでも視点を変えれば違ったものに見えるということだ。

 もう少し現実の話に置き換えてみよう。中国をどう捉えるか。政治の話ではない。製造基地として捉えるのか、それとも大消費地と捉えるのかという話だ。
 現在なら多くの企業経営者が後者と答えるだろう。では、20年前ならどうか。前者の答えが圧倒的だったはずだ。

群盲、象を評す

 ここでちょっとほかの話を。群盲象を評す、という話をご存じだろうか。これは盲人達が象を触った感想を述べ合うもので、象の鼻、腹、脚、耳など身体の一部を触り、それぞれホースのようなものだとか、壁、柱、大きなうちわのようなものだと口々に言い合うのだ。
 そのどれもが間違いではないが、誰も象という動物の全体像を捉えていないのはお分かりだろう。
 この話を聞いて、バカだなと笑うことができるだろうか。笑うことができるのは象の全体像をすでに見て知っているからで、それは象の概念化ができているということである。
 後述するが、物事の概念化ということは非常に重要である。買う側にとっても売る側にとっても。
 結論を先に言ってしまえば、概念化できないものは売れない。よって新商品を販売する場合、いかに概念化できるか、させられるかが非常に重要になる。

 中国という巨大な国土と国民を前にした我々はまさに象を評す群盲そのもので「中国は安い労働力の供給基地だ」「いや賃金上昇率はすごく、もはや安い労働力の供給基地ではない」「たしかに沿岸部はそうだが、まだ内陸部の賃金は低い」「中国は著作権に対する認識がないからすぐ物まねされるから危険」「急激に中間層が増えているから巨大な消費地として今後期待できる」「富裕層を狙えば高額商品がバンバン売れる」等々、意見百出。
 いずれも中国という巨大な体の一部を触り評しているわけで、それらのどれも間違いではないが、現状認識にしか過ぎない。
 問題はどの視点をとり、どういう態度で臨むのか、将来のリスクにどう備えておくのかだ。そこをしっかり決めず、目先にだけとらわれて進出するから失敗する。それは中国に限らず、インドでもベトナム、ミャンマーでも同じことだろう。
                                               (2)に続く

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