エンディングノートと生前葬


栗野的視点(No.833)                   2024年8月23日
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エンディングノートと生前葬
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 終活とエンディングノートでは意味合いが異なるが、どちらも人生終盤に差し掛かって関係することと言るかもしれないが、私の周辺で耳にしたことがないということもあり、自分にはまだまだ縁遠いことだと思っていた。
 ところが、ごく最近エンディングノートを書いたとある人から聞かされた。

 数か月に一度定期検査で通っている病院の看護師が私にCOVID-19(新型コロナウィルス感染症)に感染しないよう予防するようにと注意したのだった。
「予防って?」
「まずマスクしてください。最近マスクしない人が増えていますが、感染が拡大していますから」
「そうですか、最近は感染しても重症化しないし、インフルエンザの方がよっぽどしんどいという声も聞きますよ」
「どんどん変異していっていますから。私は本当にエンディングノートを書きましたから」
「えっ、エンディングノートを書いたの」
「はい。本当にもうダメかと思いました」
「最近はどこで感染したか分からないと言いますよね」
「私は分かっているんです。どうしてもマスクをされない患者さんが1人いて、その人からだと思っています」

 そう言った後、私は特に注意するようにと釘を刺された。
「ガンを患っているんですから、感染したら重篤化しますから」と。
 すっかり忘れていたが、注意されて自分が前立腺ガンを患っているのを思い出した。
「それにしては最近、以前ほどコロナのことが言われなくなりましたよね」
「小さなクラスタはあちこちで発生しているはずです」

 そうか気を許してはいけないんだ、と改めて感じた。特に自分はガン患者だから、言われるように感染すると重篤化する危険性はある。まだエンディングノートは書きたくないが、おそらく彼女には子供もいたのではないだろうか。

 この頃、終活だとかエンディングノートといった言葉が日常会話のような軽さで語られることが増えているように感じるが、彼女のように切迫した環境下でエンディングノートを残さなければという切迫した状況を思いやるとなんともやるせない。
 常に危機に備えておくことは必要か。

 話は少し変わるが、60代後半に差し掛かかった頃、生前葬をしたいと思った。そして生前葬をしてくれないかと頼んだが断られた。「葬」という言葉に拘りがあったのだろう。
 いや、別に死ぬわけではないんだから、と言ったがダメだった。今でもそのことが悔やまれる。

 私は「面白いね。パーッとやりましょう」というノリで企画してもらいたかったのだが、その思いは伝わらなかったようだ。
 なぜ生前葬なのか、などを事細かく語りたくはなかった。それを面白いと捉えてくれるかどうかという感性とノリがなければ、いかにも「葬儀」になってしまう。

 早い話、パーティーをしたかったのだ。皆に集まってもらいワイワイガヤガヤ語り合いたかった。60代後半頃なら100人超は集まるだろう。また集まってもらうためには「生前葬をする」という呼び掛けが効くと思っていた。
 死後に行われる葬儀に集まってもらっても面白くもなんともないではないか。第一、参加してもらった人と語れるわけではない。
 それより葬儀を模して、模さなくてもいいが、参加者と語り合いたいし、「生前葬だから」と言えばご無沙汰している人も参加してくれるかもしれない。
 じゃあ、今やりましょうか、と言われても70代ではシャレにならない。集まってくれてもせいぜい数10人かそこらだろう。それでなくともここ数年、年賀状終いが届く。
 何事にも旬がある。旬の時期にやらなければと思うが、もう遅きに失した。

 ところで今流行りの終活。私はしないつもりで来た。というのはモノはモノとして存在するのではなく、思い出とともに存在すると捉えているからだ。モノを捨てるということは、そのモノにまつわる物語も一緒に捨てることで、それをゼロにする、deleteする、あるいはフォーマットし、なかったことにすることだから、そんなことはできない。
 だからモノは捨てられないし、削除できずに来たがPCを新しく買い替えたついでにメールのアドレス帳を見直し、思い切って整理し始めた。文字通りのdeleteである。
 後生大事に残しているのは私だけで先方はとっくに削除しているかアドレス帳にすら登録していないのかもしれない。そう考えるとアドレス帳の断捨離は必要かもしれないと思い、一大決心した。
 たかだかメールソフトのアドレス帳ぐらい、と思われるかもしれないが、袖振り合うも他生の縁と考える私にはまさに一大決心で、何度も逡巡しながら少しずつdeleteしていっている。


(著作権法に基づき、一切の無断引用・転載を禁止します)

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