「SHOGUN 将軍」が日米で話題になっている。いや日米だけではないが、少なくとも全米と日本では大いに話題になっている。
「Oscars So White」と「SHOGUN 将軍」
「SHOGUN」と言えば、ある程度の年齢以上の人は1980年に大ヒットした、島田陽子が「まりこ」役を演じた「将軍 SHOGUN」を思い出すかもしれない。私自身も今回、真田広之が演じた吉井虎永役の三船敏郎より島田陽子の方が頭に浮かんだ。あのドラマで島田陽子は全米で一躍スターダムにのし上がった。
それから44年後の今年、「将軍 SHOGUN」がアメリカで当時と同じようにTVドラマとして放映されて大ヒット。TV界のアカデミー賞と謳われるエミー賞を主演・プロデューサーの真田広之はじめ各氏が受賞し話題になったのはご存知の通りだが、80年の前作と大きく異なっていたのは24年版では出演俳優のセリフがほとんど日本語で演じられたことだ。
日本制作ではなくディズニープラスというアメリカの会社の制作で、日本向けのTVドラマではなく全米向けの放映にもかかわらず全編日本語というのは初めてだと思うが、これにはいくつかの伏線があった。
まず1つは2020年に韓国映画「パラサイト 半地下の家族」がアカデミー賞の作品賞ほか4部門で受賞したこと。非英語作品の作品賞受賞は史上初めてだが、それより以前、1916年頃から起きていた変化を促す動きがあった。
「Oscars So White(オスカーズ ソー ホワイト)」−−。「白すぎるオスカー」と訳されているようにオスカー受賞者が白人ばかりで非白人、有色人種が選ばれないことへの批判である。
これは映画界における人種差別の問題であり、それに対する声は1916年から上げられ、毎年のように抗議の声や抗議が起きている。今年の授賞式でも見られたが、日本人は人種差別の問題に対してはどこか他人事(ひとごと)で、自分達には関係ない、あるいは日本人は「近白人」的な意識があり、オスカー授賞式でのこうした動きが報じられることはほとんどないが、アメリカ社会で生活している日本人からは日本を含むアジア系への人種差別を受けた、感じるという声が上げられているし、そうした声が届くようになったのはインターネット社会だからだけではないだろう。
非白人を主役に据えた映画もあるし、それらの作品が受賞した例もあると思われるかもしれないが、それらは飽くまでも白人から見た都合のいい黒人を描いたものであり、アジア人その他の有色人種で非白人系はステレオタイプに描かれてきたし、描かれている。
ハリウッドで人気を博した日本人は高倉健や渡辺謙に代表されるような「寡黙な日本人」で決して陽気だったり自己主張する日本人ではない。日本人は「礼儀正しく寡黙」で静かにお辞儀をする、というのがアメリカ人が日本人に抱くイメージであり、俳優はそうしたステレオタイプの日本人像を演技することを求められる。
黒人はもっとはっきりしていて白人に従順な黒人役姿で、決して白人に逆らったり意見をする黒人役が評価されることはないし、スクリーンに登場することはない。
ネイティブアメリカ人(先住民)の場合はもっと典型的だろう。彼らは常に騎兵隊の敵であり悪として描かれ、侵略者と戦う先住民が主役に据えられることはない。
オスカーの授賞式ではそのことがはっきり現れ、ジョンウェインやクリントイーストウッドといった西部劇で大活躍した俳優(2人とも大好きだったし、老年になってからのイーストウッドは特に好きだが)は右派でネイティブアメリカンに対する差別行動・発言を1973年の授賞式で露骨に見せた。
ついでに触れればチャールトン・ヘストンは人種差別には反対で公民権運動の活動に熱心だったことでも知られているが、全米ライフル協会の会長を1998年から2003年まで5期務め、銃規制には終始反対し続けた。
「SHOGUN 将軍」24年版がヒットしたのは「Oscars So White」運動と必ずしも無縁ではないだろう。
もちろん真田広之のアメリカでの地道な俳優活動と日本文化を正しく表現したいという思いがあってこそで、日本語でのセリフにこだわり、1600年の日本を忠実に再現するというこだわり等があってこそだが、それを制作人が認めた背景には「Oscars So White」運動があったのは間違いない。
そこにアメリカ人が求めるステレオタイプの日本人ではない日本人、1600年の日本の忠実な再現をぶつけたが故に大ヒットしたといえる。
(2)に続く
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