科捜研の不正は冤罪を生む
それでも最近、警察組織に変革の兆しが見え始めた。
1つは取り調べの可視化であり、もう1つは刑務所・拘置所の処遇だ。
取調室という密室内での強引な自白強要、それは時に暴力を伴うなど戦前の特高による取り調べとほとんど変わらない自白偏重主義に基づくものだったが、科学的な証拠に基づくものに変えられつつあり、取り調べの様子を録画するように変わってきた。
科学的な証拠ではなく自白第一主義に基づく取り調べが冤罪を生んで来た反省からだが、やっといま頃になってというか、あまりにも遅すぎたという思いがする。
科学的な捜査の砦といえば科学捜査研究所(科捜研)が思い浮かぶが、科学捜査とは名ばかりの不正を行っていたのだから驚くというか呆れた。
科捜研の名を主婦層にまで知らしめたのは「科捜研の女」というTVドラマだが、あれはあまりにも酷い。科捜研の仕事を鑑識科の仕事と同一視しているだけでなく、職員がまるで刑事のような仕事をしている。
よくあれで警察や科捜研から苦情が来ないものだと思っていたが、現実はドラマ以上に酷かった。
つい最近、佐賀県警科捜研の不正が明るみになったからご存じの方は多いと思うが、40代の職員が7年間もの間、鑑定結果をすり替えたり、鑑定していないのに鑑定したかのように偽った報告書を提出するなどの不正を働いていたのだから科学鑑定を信用できないだけでなく、警察組織そのものが信用できなくなる。
科捜研の不正は佐賀県警だけの問題かと疑いたくなるし、7年間という期間の長さ、その間に明らかになっているだけでも130件という不正件数の多さ。
裁判結果に影響を与えたものもあったのではないかと考えられるが、県警本部長は「それはない」と先頃の会見で否定。
ならば第3者委員会を設置し検証していいと思うが、第3者委員会の設置の必要性は重ねて否定している。
警察組織が内部不祥事を表沙汰にしない隠蔽体質はいつになったら変わるのか。
番号から「さん」付けに変わった呼び方
一方、大きく変わったのが刑務所での処遇である。
「監獄法」が「刑事施設法」に変わってから20年後の今年6月、刑務所の収容者を番号でなく「〇〇さん」と名前に「さん」を付けて呼び、収容者の方から刑務官を呼ぶ時は「職員さん」「担当さん」と呼ぶように改められた。
これは単なる呼び方の変化という以上に大きな変化、改革である。呼称が変わるとそれまでの監視する側と監視される側という厳しい緊張関係がなくなり、人間関係が少しフラットになっていく。
もちろん6月から全国の刑務所で一斉にそうなったわけではないし、導入当初は刑務官、収容者双方に戸惑いもあり、一朝一夕に両者の関係が変わったわけではないが、これは大きな変化である。
実際、刑務官の方からは今までは収容者に舐められたらいかんと笑顔を見せず、常に緊張しているストレスから少し解放されたという声が上がっている。
戸惑いは収容者の方が大きかったかも分からない。今までは常に歩く際も号令を掛けられ、行進していたのが、それがなくなるとどう歩いていいのか戸惑ったり、命令、指示で動いたり働いていたのが自分達で考え行動しなければならなくなったのだから。
これは出所後の社会生活に向けての訓練でもあるが、刑務所が懲罰から更生へと大きく方針転換したことを示す一例だが、こうした処遇改善が全国の刑務所で定着するかどうかは今後もう少し見て行かなければならないが、受刑者をモノではなく人間として見るように変わりつつあるということだ。
更生に向けたこうした取り組みは再犯を防ぐことにも繋がっていくだけに期待したい。
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