環境問題はひとまず置き、変なコストカットの話に戻ろう。
岡山市のイオン系スーパーに入った時のことだ。ここが本当にスーパー? と驚いた。店内が薄暗すぎた。なぜ、こんなに薄暗いのか疑問に感じ、店内を歩きながら確認して行った。
その結果、壁側の照明は暗くないが、中通路の照明が暗いことが分かった。照明が切れているのかと思ったが、天井に取り付けてある細長い直管蛍光灯が1つ置きに消えていたので蛍光灯が切れているのではなく「消されて」いたのだ。
明らかに高騰している電気代節約のためと思われるが、同じイオン系スーパーでも他の店舗ではここまで照明を落としているのを見たことがないから、この店舗のみだと思う。
同一エリア内の競合他社数などを調べたわけではないが、経費削減で少しでも赤字幅を減らしたいのか、あるいは黒字幅を増やしたいがためなのかは不明だが、いままでスーパーでここまで照明を落とし店内を薄暗くした店舗にお目にかかったのは初めてだ。
なにより、店内が薄暗いと購買意欲が衰える。商品が目に付きにくいということもあるが、なによりこちらの気持ちが暗くなる。
その時に思い出したのが「照明を明るくしなさい」と言った元ダイエー副社長の言葉だ。当時はまだダイエー副社長になる前で、熊本のスーパーの社長に就任して間がない頃だったと思うが、赤字経営になると経営側は人件費、光熱費等を含め固定費の削減に動きがちで、そのスーパーでも店舗は別にして管理部門等の照明を消して回っていた。するとそこで働く人の気持ちまで暗くなるから、照明を消すのをやめさせ、元の明るさに戻すよう指示したのだ。
ましてや店舗の照明である。買い物客の心が暗くなれば、その店では最低限必要なものしか買わず、他の店に行ってしまう。
そうなれば逆効果。負のスパイラルに陥ってしまう。
これが1店舗、1社だけならそこだけの話だが、この国は横並びが好きだ。トップランナーになるのは嫌だが、他所がやれば即右に倣えでやる。しかも後から追随する側は先頭ランナーを見倣うだけではなく、それ以上のことをやろうとする。
かくしてどこもかしこもコストカットを行う。これでもかというぐらいに「経費節減」「無駄削減」「コスト削減」に走る。
こうした動きは一度動き出すと止まらなくなる。バブルの時も同じだったが、今回は逆に進んでいる。誰もかしこもがコスト削減こそ「正義」と信じて行っている。
気が付いたらこの国は「おもてなし」どころか、味気ない貧困国に成り下がっている。
その一方で光熱費の値上げなどものともせず自宅で菓子やケーキを作り、1食数1000円のラーメンや海鮮丼を安いと言うのを見聞きして、「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」と嘯いたマリー・アントワネットの言葉を思い出した。
1泊何10万円もするホテルや旅館に泊まる富裕層もいるなど、この国は完全に2極化している。その一方で少しでも光熱費を減らすためエアコンをつけるのを我慢せざるを得ない多くの層が存在している。
数では富裕層より貧困層の方が多いにもかかわらず、声を挙げないのはなぜだ。貧困になれてしまったのか。自分は中間層だという幻想をまだ抱いているからなのか。あるいは国の現実を見ようとしない、認めようとしないからなのか。
かつての「怒れる若者」は「体制に従順な中年」になり、今では「怒ることすら忘れた老年」。いや、かつて怒ったことさえなかったのではないか。当時の流れに乗って「怒れる振り」をしていただけだろう。これではこの国が変わらないのは当然かもしれない。
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