パラダイムは変わるか、変えられるか。(2)
〜開発サイクルを見直す動きも


開発サイクルを見直す動きも

 企業活動に話を移そう。かつてのパラダイム、大量生産・大量消費を前提にしたモノづくり、マス消費を対象にした販売方法はとっくに過去のもの、と言われながら相変わらずパラダイムを変えられずにいる企業が大半だ。
 なぜ、無闇な競争を続けるのか、薄利多売から脱却できないのか。
理由は一つ、恐れだろう。販売価格を上げたら商品が売れなくなるのではないか、他社にシェアを奪わるのではないか、よそと違う物を作れば売れるかどうか分からない等々の恐れ。
 だから横並び、あるいは他社の後追いで同じようなものを作っていく。その一方で、中国等のモノマネビジネスを非難しながら、だ。

 この恐れ故にモデルチェンジを毎年のように繰り返す。ちょっと目先を変えただけのマイナーチェンジに騙されて買う消費者も消費者だが、企業もそれで本当に儲かっているのかといえばそうでもない。
 たった1年で新商品を出すバージョンアップとは一体何だ。一般的に、商品開発に最短でも1年はかかるはず。仮に100歩譲って、1から始める新商品開発ではなく次世代機種、バージョンアップだから半年でできるとしても、新商品発売から半年後には次期製品の開発に取り組まなければならない。
 逆の見方をすれば、半年後には次世代機種を発売するわけで、わずか半年でバージョンアップしなければならない性能、機能しか付与していないということになる。そんな中途半端な製品を発売するより、半年から1年待って、製品をしっかり仕上げて発売したらどうかと思う。
 毎年バージョンアップを行う典型はパソコンのソフトウェアだ。文書作成ソフトや表計算ソフト、年賀状ソフトなど随分以前から完成形になっているものに毎年バージョンアップを繰り返す意味はないだろう。せめて数年に一度で充分ではないかと思うが、競争から脱落しそうな恐れがそれをできなくしている。

 毎年のように新製品を市場に投入すれば、企業に利益をもたらすかといえば、むしろ逆だろう。新商品が市場で最も売れ、また高い利益率を稼げるのは一般的に3か月間だ。それ以降は急激に販売価格が下がる。当然、利幅も縮小する。半年を少し過ぎると販売額・数ともに一定水準(高めではなく低めの)で推移していく。
 新製品発表サイクルの数か月前頃になると販売店は手持ち在庫処理のため価格をさらに下げる動きが現れ市場は少し活性化するが、利幅はむしろ縮小する。その一方で、新製品待ちの買い控えが起きる。結局、メーカーが儲かるのは最初の3か月間だけだ。

 こうしたことが起こるのは商品の投入サイクルが早いからで、逆にサイクルを伸ばすとどうなるか。その好例がキャノンの中級カメラ「EOS7D」だ。
 同機が発売されたのは2009年10月初め。その後継機「7D MarkU」が発売されたのが2014年10月末だから、実に5年間も次世代機種が投入されなかったことになる。エントリー機種は毎年、中級機でも2年置きに発売されるサイクルが一般的なカメラ業界で、5年も現行機種が売れ続けるのは異例である。しかも、年数がたっても販売価格が下落していない。それどころか、昨年は逆に平均販売価格が値上がりさえしている。
 1、2年で技術が陳腐化すると言われるデジタル時代に5年もの間モデルチャンジをせず売れ続けているカメラはまさに「モンスター」といえるが、魅力的な商品を出せば市場で売れ続けるし、ユーザーはその商品を使い続けるという好例である。

 ところで昨年末、株式会社インプレスが自社発行カメラ雑誌「デジタルカメラ」でキャノン、富士フィルムにインタービューしていたが、その中で「毎年のモデルチェンジは積極的に行わない方向」(キャノン)「頻繁に新製品を投入するのではなく、最高級機として十分に納得戴けるものに仕上げてから投入したい」(富士フィルム)と、両社とも今後は新製品発表サイクルを長くする意向が伺える。
 この方向が定着するのかどうかはもう少し見ないとわからないが、少なくとも今後はパラダイムシフトに移行する必要性を感じているようだ。

バーゲンを縮小する動きも

 こうしたことは実はすでに何年も前から分かっていることだ。にもかかわらず、その方向に動かないのは、すでに述べたように「恐れ」があるからだろう。「フライング」して「失格」になりたくないが故に、横並びで動向を見ているのだ。
 だが、もうそんな悠長なことを言っていられる時代ではない。変えるのはいまでしょ、とばかりにパライムシフトに踏み出した企業が各分野で現れだしたのは未来の希望かもしれない。
 例えば横並びが好きな流通業にあって、今冬、三越伊勢丹はバーゲンを縮小する方向を打ち出した。
 バーゲンは集客の非常に有効な手段であり、バーゲンを行えば集客、売り上げともにあがる。たとえ利益率は低かろうと、目先の売り上げ数字が上がるからデパートはバーゲンをやめられない。それどころか、ライバル店より1日でも早く実施して自店に客を呼び込もうとする。結果、冬(夏)真っ只中に冬物(夏物)バーゲンを行うという異常な事態が常態化している。
 こうなると消費者の方もそのシーズンのものをバーゲンまで待って買うようになる。結果、利益率が高い時期にシーズン物が売れなくなる。売れないからまたバーゲンに頼るという悪循環になる。それが分かっていても上述したようにやめられない。
 さて、三越伊勢丹に続く動きが出てくるかどうか。
                                               (3)に続く

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