老々介護と施設選びの経験から見えたこと(4)
〜遠い施設より近くの方がいい


 経費面から言えば「特養」と言われる「特別養護老人ホーム」が最も安く、できれば特養にと思っていたが、特養は「要介護3」以上でなければ入れず「要支援2」の母は対象外だった。
 そうなると入れるところは公的施設ではケアハウス、民間施設は住宅型有料老人ホームとグループホームになる。
 ケアハウスは軽費老人ホームと言われるように経費負担は比較的軽いが、低所得者を対象にしているため年金受給額が多いとやはり対象外。グループホームは主に認知症の年寄りを対象にしている施設である。
 結局、母は岡山県では住宅型有料老人ホームに、福岡ではグループホームに入所した。

遠い施設より近くの方がいい

 いずれの場合も事前視察を行い、ここならよかろうと考え入居申し込みをしていたのだが予想が外れたこともあった。

 まず、いい方から。
両施設とも申し込みから半年かそこらで入所できたこと。待機人数は岡山県の田舎でも30人、福岡市では100人と言われていたので、最短でも数年の待ちを覚悟していただけに、半年程度の待ちで入所できたのはツイていた。
 当初、老人ホームの部屋が空くのは入居者が亡くなった時しかないだろうと思っていたが、むしろそれは少なくて、他の理由で退所するケースの方が圧倒的に多いということは後になって知った。
 では、他の理由とは何か。他所の施設に移るか、病気で入院する場合である。一時入院という場合もあるが、施設が部屋をそのまま維持してくれる期間は大体1か月間のようだ。それ以上、入院が長引くときは退所手続きを取らせられる。

 次に他所の施設に移るケースだが、同じ分類の老人ホーム、例えば住宅型有料老人ホームに入っていた人が別の住宅型有料老人ホームに移るケースは稀だろう。住宅型有料老人ホームから移る先は認知症の人を対象にしたグループホームが圧倒的に多いのではないか。

 これは母の入所先で実際に目にしたことでもあるし、施設の人から私自身が打診されたことでもある。「3食昼寝付き」で施設に入っていれば大なり小なり認知症が進むということもあるが、入所者同士のいざこざも起きる。
 昨日まで仲よく話をしていた年寄り同士が些細なことで仲違いをし、それまで隣り合って座っていた席も端と端に離れて座りだしたり、互いに口も利かなくなるということはよくあるようだ。
 そうした時、職員が仲を取り持つような対応をしてくれればいいが、見て見ぬ振りをしていると2人の関係は一向に修復できない。そこに認知症から来る短気が作用すれば喧嘩にまで発展する。
 そうなると「厄介な人」と見られ「他所の施設」へ移ることを「アドバイス」される。最初は転所をほのめかす程度だが、度重なるとイエローカード、レッドカードを突き付けられる。
 母の場合も若い職員から一度「別の施設をお考えになってはいませんか」と言われたことがあった。その時は真意が分からなかったので「いや考えていません」と答えたが、どうやら「扱いにくい人」と思われたらしい。そういうことも母を福岡の施設に移す一因にもなった。

 次は悪い方。
福岡のグループホームは事前視察も数度行っていたが、いざ入所してみると最初の話と違っていたことがあった。外出行事が一切なかったのだ。
 例えば九州でも岡山でも、私が花の撮影に行っていると車イスを押されたお年寄り達をよく見かけるものだから、ついつい引率の人に「今日は何かあるんですか」「どこからお出でなんですか」などと尋ねてしまう。
 その時の会話で介護施設に入っても時々外に連れ出し花見などをさせてもらえるのだと知った。「こんな風にされるといいね」とパートナーともよく話していたし、こんな施設に入れたいと考えていた。そして母が入った福岡のグループホームでもレクリエーションで外出するスケジュールがあることも確認していたが、実際には一度もそうした外出はなかった。代わりに私達が母を施設から連れて外出したり、自宅で食事を一緒にしたりを時々していたが。

 実はこのグループホームは第二希望だった。第一希望は別のグループホームだったのだ。第一希望のグループホームは建物は古かったが、中の人達がお年寄りに接する態度がとても温かく、アットホームな雰囲気があった。
 中心に皆が集うリビングがあり、その周囲に個室が扇形に配置されていた。リビングにいれば各人の動きが把握できる配置だ。

 第一希望のホームに空きが出るまで待った方がいいのか、それとも空きが出た第二希望のホームに入った方がいいのかは正直よく分からない。ただ、いつになるか分からない空きを待ち続けるより早く母を近くに呼んだ方がいいだろう。母も「お前の近くがいい」と言っているし、と思い、連絡が来た福岡のグループホームに入所させたのだ。
                                     (5)に続く


(著作権法に基づき、一切の無断引用・転載を禁止します)

トップページに戻る 栗野的視点INDEXに戻る

吉野家の冷凍牛丼の具シリーズ イオンの通販saQwa<イオンサクワ>



タカラトミーモール