デル株式会社

 


先進国でなぜ民主主義が危機に瀕しているのか(3)
〜人は裏情報に惹かれる


人は裏情報に惹かれる

 もう一つは新聞、TV、ラジオといったマスメディアが果たす役割、立場が相対的に小さくなったことが挙げられる。
 大手企業に独占されていた情報の発信手段がデジタル化の進展により崩れ、情報の民主主義化が進み誰でも情報発信できるようになったことが大きい。その結果、マスメディアよりリアルタイムで頻繁に情報発信されるSNSなどのインターネット情報の方が目にする機会が多くなる。

 情報は接する機会(回数)が多いものの方に影響されやすい。繰り返し発信される情報に接していれば知らず知らずの内にその情報を信じるようになっていく。
 そう、情報は量より質ではなく、質より量で、量的に多い情報に影響されていく。

 発信情報量が増えれば目にする情報も多くなり、知らず知らずのうちに影響を受けるだけでなく、届けられる情報も似たような情報ばかりになり、異なった意見、違う視点の情報が届かなくなる。あるいはそうした意見を排除していく。洗脳である。

 心理学の分野では「確証バイアス」と呼ぶ。仮説や信念を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向のことで、先入観や固定観念が強い人ほど確証バイアスに陥りやすく、一度陥るとなかなか抜け出せない。

 平たく言えばアマゾンでも楽天市場でもいいが、一度商品検索をしたり注文すれば次から同じような分野の商品を提示してくるだろう。それを見て自分の趣味をよく分かっていると称賛、納得するか、デジタル社会のリスクを感じるかは人それぞれだろうが、何の疑問も感じず提示される商品を見ている内に部屋の中にはそれらの商品が溢れていたということはないだろうか。
 無意識の内にそうした商品を買わされていたわけだが、怖いのはそれらを買ったのは自分の意思で他から押し付けられたわけではないと思い込んでいることだ。

 昔から人は裏情報に惹かれる。表の情報は誰もが知っている情報であり、それとは違うもう一つの情報、裏情報はそれに気づいた人のみが知っている「真実」で、自分はそうした「真実」情報を知っている人間、いわゆる「選ばれし者」という優越感に包まれる。
 多くの人は本当のことを知らない。政府が、一部の富裕層が自分たちに都合よい情報のみを流す情報操作をしているのだが、多くの人はそのことを知らないと。
 かつてはフリーメーソンが、ロスチャイルド家が、宇宙人が、徳川家の隠し財宝やM資金まで、ありとあらゆるものが「○○が」と囁かれてきた。

 いわゆる陰謀論だが、共通しているのは夢に一部の事実を混ぜて語られていることである。
 例えばフリーメーソンという組織は実在し、ジョージ・ワシントンアメリカ大統領が会員だったことは知られているが、入会規定が厳しかったり現在ほど外部にオープンではなかったりしたことも影響し長年秘密結社と思われてきたし、現在でも彼らが世界の政治を動かしているとまことしやかに語り、信じている人もいるが、言ってしまえばロータリークラブと似たような組織だ。

 だが陰謀論、宇宙人説は秘密めいているが故にワクワクし楽しいから、時代が変わっても信じる人は減らない。むしろ増える傾向にあるとさえいえる。特にCOVID-19の世界的大流行(パンデミック)の頃から極端になった。

 情報伝達手段が今ほど多くなかった時代には一部の人達の間で共有されていた情報がネット社会になり誰もが入手・発信できるようになると「裏情報」「もう一つの真実」が表に出て歩き出し、裏情報ではなく表情報になり「真実」として語られるようになった。

 その結果何が起きたのか。陰謀論、もう一つの真実を信じる人の増加であり、それが世論の二分化へとなっていく。
 今回の兵庫県知事選では陰謀論に判官びいきが加わった。パワハラはなかった、県会議員による知事追い落としだとする陰謀論に、孤軍奮闘している前知事が可哀そうという判官びいきが加わり、タレントを応援するような「推し」感情で応援動画の拡散が増えていった。

 インターネットは情報の多様化、民主化を助けるツールであったが、逆に多様化ではなく集中化を招き、結果としてポピュリズムが蔓延り、勢力の二極化を招いている。
 さて、今後だが、こうした動きは是正されるかといえば否定的にならざるを得ない。
 ChatGPT、AIでいとも簡単に一見真実らしい文章が誰でも作成されるようになると、ますます真偽不明の情報が飛び交うようになり、世論はあれかこれかの2極に分化され集中していくだろう。いや、すでにそうなりつつある。


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