過剰生産こそが問題(3)
〜モデルチェンジが早すぎる


モデルチェンジが早すぎる

 中級機市場が縮小し始めたのは他にも要因がある。写真撮影を趣味とするシルバー世代の買い換え意欲の減退と、軽量コンパクトなミラーレスカメラへの移行である。
 時間と金にゆとりがあるシルバー世代とはいえ徐々に体力は衰えていく。そうすると重くて嵩張るカメラを持ち歩くのが億劫になり、カメラを軽くしたい。かといって写りは妥協したくないし、安っぽく見えるカメラは持ちたくない。持つなら本格的で、所有欲も満足させてくれるカメラ、言うならライカのようなカメラを持ちたくなる。
 そういう層を取り込んだのがソニーと富士フイルムだろう。ソニーはフルサイズ、富士フイルムはAPS-Cサイズという違いこそあるものの、ミラーレスカメラにしてはともに高級で価格も高い。
 α7レンズキットでさえ20万円超の価格だったから、もはやミラーレスカメラ=コンパクトで軽く、手ごろな価格という図式は成り立たないようだ。
 ソニーが今年発売したα9はボディーだけで50万円。レンズを付ければ70〜80万円。あるいはもう少し高くなるかもしれない。

 高級カメラを買った層はそう頻繁に買い換えをせず、長く使うようになる。当然、買い換え需要は減る。
 早い話が、資金的に余裕があるシルバー層は高級だが、軽量コンパクトな市場へ移り、そのカメラを長く使うようになるから中級機市場は否応なく縮小に向かう。
 さらに2つの要因が加わる。1つは大きいものを好むと思われていた欧米市場でミラーレスカメラが売れ出したように、日本人=小型、欧米人=大型を好むという図式が崩れた、というか欧米市場が日本国内市場に遅れて動きだしたというだけで、市場の動きもグローバルに連動しているということだ。
 日本メーカーはともすればガラパゴス化した思考をしたがる傾向にあり、それ故に対応が一歩も二歩も遅れることがままある。今回も同じで、市場の縮小に気付きながら、まだ大丈夫と考え対応が遅れた。特にカメラのウェイトが高かったニコンは。

 もう1つはカメラの性能と新製品発表サイクルの問題がある。デジタルカメラは画素数競争のような側面があり高画素化を競ってきたが、2000万画素超えあたりから頭打ち感が漂い始めた。これ以上高画素化しても大伸ばしを必要とする広告撮影用ならいざ知らず、そこまで拡大する必要のないアマチュア写真家にとってメリットはほとんどない。
 そこに持ってきてほぼ毎年のように発売される新製品。中級機の発売サイクルは2年〜3年だが、その間にエントリークラスに位置づけられるカメラの性能アップがあり、中級機の方が画素数、画像処理エンジンで後れを取るという下克上状態が起きている。
 ランク的には下だが、新しいカメラの方が写りがいいか、中級機と同程度、どうかするとそれ以上の写りなら、所有欲を満足させるためだけに重くて高い中級機を買わずとも、コンパクトで軽くて、しかも価格が安いエントリークラスのカメラで充分。あるいはメーン機の買い換えを抑え、エントリークラス機をサブ機用に買おうと考える人が増えてくる。

 私的なことだが私自身も新しいカメラに以前ほど関心がなくなった。現在、使っているニコンD7000とD5300、それに富士フイルムのミラーレスカメラX-T10で充分と考えている。
 カメラの購入履歴も上記の順番で、中級機のD7000、それよりランク下だが画素数、画像処理エンジンが上のD5300、そしてミラーレスカメラのX-T10と買い増してきた。その度に軽量コンパクトなものに移り、持ち出すのも軽量コンパクトな両機種の方が増えている。

 結局、メーカーが自分で自分の首を絞めているようなもので、コストパフォーマンスの高い入門機をほぼ毎年発売しカメラ人口を増やすつもりが、入門機の性能がどんどんアップしていくものだから、ユーザーにすればステップアップする必要がなくなってきた。それもこれも元を正せば造りすぎが原因である。
 大量に造って薄利多売で行けた時代は商品の普及前期。それ以降、つまり商品が市場に大量に出回り始めると価格の下落を招き、それと併行して商品価値(ブランド力)も下落していく。そして待っているのは商品の使い捨てだ。
                                               (4)に続く


 


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