「コロナ」が変えた社会(W)
〜貧困層が増え、社会的格差がさらに拡大(3)」

〜格差は拡大するのか縮小するのか


格差は拡大するのか縮小するのか

 問題はこの格差が今後どうなるのか。縮小するのか、さらに拡大するのか。
「努力次第で上に行ける」「頑張れば成功者になれる」と言う人がいるかもしれない。そう言う人は団塊の世代以上だろう。
 たしかに戦後からしばらくの間は既成秩序が破壊された戦国時代に似た時代で、皆が同じスタートラインに立っていた。そういう時なら「自分の力で」「頑張ればなんとか」なったし、多くの企業がベンチャーだった。
 だが、今はそんな時代ではない。にも拘らず「頑張れば上に行けるのだから」と言う人はよほど現実を無視しているか、幻想を振り撒き、馬の前に人参をぶら下げて走らそうと考えている人に違いない。
 今後、格差が縮小する可能性があるとすれば世界経済が破綻し、既成秩序が崩れ、皆がもう一度同じスタートラインに立った時以外にない。

 COVID-19の世界的大流行がそのきっかけになるだろうか。たしかに世界経済に未曽有の打撃を与えつつあるから、考えられないことではないと思えそうだ。
 しかし100年前のスペイン風邪の大流行でも世界経済に壊滅的な打撃を与えることなく資本主義経済は立ち直った。
 それを併せ考えても、COVID-19が世界経済と既成秩序に壊滅的打撃を与えるとは残念ながら思えない。
 とはいえ、一切の打撃も変化もないわけではない。ただ、起きる変化が大半の人、人口の90%を占める人々にとって好ましくない変化だというだけである。
 そう、今でさえ不平等な、富める者と貧しき者の格差は縮まるどころか、逆に今以上に開いていくだろう。

 例えば正規雇用と非正規雇用。今回のCOVID-19は航空・運輸業界や自動車関連業界にも大打撃を与えているから必ずしも大企業に属している人が安泰とは言えない部分もあるが、それでも最初に雇用調整されるのは非正規雇用の側だ。
 非正規雇用の中には会社の寮に住み込みで働いている人も多く、そういう人は職を失えば住む場所も失い、路上生活を余儀なくされるし、そういう例も増えている。

 もっと卑近な例で言えば皆がマスク不足で困っている時でも富裕層はそんな騒動とは無縁な生活をしている。彼らにとってマスクみたいなものはカネさえ払えばいくらでも入手できるし、第一、ソーシャルディスタンシングなんて殊更に言われなくても常日頃から混雑とは無縁な生活を送っている。
 仮にウイルスに感染したとしても専属の医師や医療団が手厚い看護をしてくれるわけで、治療費の心配をしなければいけない90%の人間からすれば羨ましい限り、と暢気に構えてはいられない。アメリカで重症者や死亡者が極端に多いのは貧富の格差が大きく関係しているからである。

 ご存知のようにアメリカには日本のような国民医療保険制度がない。一部の人達を対象にした医療保険はあるが保険料がとても高い。そのため国民の大半はそうした医療保険に入りたくても入れず無保険者である。
 日本でも健康保険を使えず医療機関で治療を受ければ高額な治療費を現金で払わなければならない。それができないから「ちょっとした熱がある程度」では医療機関に行かなくて(行けなくて)亡くなる人が多い。「アメリカ人は盲腸の手術や出産ぐらいは1日で退院して帰る」と一時期吹聴する人達がいたが、それはアメリカの医療技術が進んでいるからでもなんでもなく、医療費の高さがそういう行動に出させているのである。
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