今すぐできる「踏み間違え」3つの防止策(2)
〜足し算ではなく引き算防止策で


足し算ではなく引き算防止策で

 以上、高齢者と交通事故の関係について見てきたが、ここからはブレーキとアクセルの踏み間違え事故と、すぐできる防止策について見ていきたい。

 まず、なぜブレーキとアクセルを踏み間違えるのか。この踏み間違え事故に関するメディアの報道等を見ていると、高齢者と関連づけて報道する傾向を感じられるが、以前にも書いたように「踏み間違え」事故は高齢者に特有のものではなく、全年齢層で起きている。にもかかわらず、高齢者の場合が大事故に至っているのはミスの訂正能力、つまり気づきと反射神経の遅さ故である。つまりブレーキと思ってアクセルを踏み続けるから急加速するわけだ。

 ここで基本的な疑問が出てくるが、メディア等の報道では「基本的な疑問」を飛び越して、高齢者の判断ミスに持って行っている。
 重要なのは「なぜ踏み間違えるのか」ということである。そこを解明しない限り解決策は出てこないはずだが、なぜかそこをスルーしている。
 人は慌てるとミスを犯す、というのはよく知られている。最初の軽微なミスが次の(大きな)ミスを誘発するのだ。特に慌てれば慌てるほど、気が動転して冷静に考えられなくなる。その結果、修正判断ができなくなり、同じ動作を繰り返し続けるのだ。こうしたことはなにも車の運転に限ったことではなく、日常の様々な場面で起きている。そしてそれは認知症と関係なく。

 ミスはしないに限るが、ミスは起きるものである。それを完全になくすことは不可能だし、ミスを技術で完全に防ぐことも不可能だろう
 。私たちが日常使っているPCでさえ「暴走」するのを止められない。ある時は熱でCPUが「沸騰」し冷静な判断能力を失うし、連続して「指示」、出した「指示の打ち消し」等を「命令」すると優秀なはずのコンピューターはどちらの「指示」に従えばいいのか迷い、やがて「思考停止」に陥り、一切の操作を受け付けなくなることは誰しも一度や二度は経験したことがあるはずだ。そして最後の手段として電源を切ったことが(ソケットを引き抜いた経験さえあるかも)。
 自動操縦飛行を続けている飛行機がなんらかの原因でミスを起こし緊急事態に陥り、最後は操縦士の様々な試みで危機を脱したというのは単にスクリーンの中でだけ起こっている事故ではない。ただ現実の世界では必ずしもハッピーエンドにはなっていないが。

 技術が厄介なのは複雑になればなるほど制御しにくくなることだ。さらに厄介なのは技術者達は足し算が得意で引き算が苦手なことである。しかも、自分達のことを有能な飼育係だと思い込み、ライオンやトラを猫のように操っていると錯覚していることだ。
 だから「踏み間違え」を何度も指摘されると、それを新たな技術で制御しようとする。低速時にアクセルを急に踏み込んでも急加速しないように、と。

 もちろん、それはいいことだし、やるべきだろう。
だが、それにはコストも時間もかかる。
それよりもっと簡単にできることがある。
技術の足し算をやめて、引き算にするだけでいいのだ。

解決策1:ペダルの位置を右寄せに

 そもそも踏み間違えはなぜ起こるのか。
「そこ」にアクセルペダルがあるからである。
「そこ」にブレーキペダルがあれば車は止まる。

 別に言葉遊びをしているのではない。この自明のことに技術者達(車メーカー)は気づいていないか、あえて見ないようにしているのだ。
アクセルペダルの「そこ」とはドライバーが右脚を真っ直ぐ前に伸ばした位置であり、ブレーキペダルの「そこ」はドライバーの身体のセンターラインから少し右寄りの位置になる。

 かつて車はフロントエンジン・リアドライブのFR車が中心だったが、今の主流はフロントエンジン・フロントドライブ(FF車)になっている。それぞれに一長一短があり、詳述しようとすると別項を設けないといけない程の文量になるのでここでは割愛するが、メリットの一つに室内空間を広く取れる点がある。そのため小型車ではほぼ全車種と言ってもいいほど採用されている。

 室内空間を広くしたのはいいが、その犠牲になったのが各種ペダル類である。室内空間を目一杯広げようとするあまり、運転席が前輪の上辺りまで前に来ている。運転席を前に寄せれば右前輪部分の出っ張り(タイヤハウス)が邪魔になる。それを避け、かつ室内空間を広く取るためにはペダル類を左側に寄せる以外にない。
 その結果、どうなっているかと言えば、ブレーキペダルは体のセンターラインより左寄りに配置され、アクセルペダルを踏む右脚も左に少し曲げる格好になる。
 要は身体を少し左開きにする窮屈な姿勢で運転しているのだ。この姿勢は長時間ドライブでは疲れるし、慌ててブレーキを踏もうとして右脚を伸ばすと、その位置にはブレーキペダルではなくアクセルペダルがあるから、アクセルを強く踏んでしまうことになる。

 このペダル類の配置こそが問題なのだ。ブレーキとアクセルの両ペダルを右に少し寄せ、なおかつ両ペダルの間隔を少し開けるだけで踏み間違えは確実に減るはずである。
 
 なにも新しい技術を開発するまでもなくできることだし、技術的に難しい話でもない。現にマツダ車がその配置を導入しているのだからトヨタ、日産ができないはずはない。
                                         (3)に続く


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