Google

 


コスト削減の陰で失ったものは(1)
〜マニュアルがない弊害


 このところ流通小売りの現場が変だ。変なのは小売りに限ることではなく、人が関わる、あらゆる現場が変だ。人より機械の方がよほどマシな接客をしてくれると思うことがしばしばある。
 例えばATM(現金自動預け払い機)は操作を自動音声で丁寧に案内してくれるし、「いらっしゃいませ」と挨拶してくれる、飲み物の自動販売機まである。
 一方、人間の接客はどうだ。まるで口を開くとコストがかかるかのように無口で無愛想。客と目を合わせることさえない、と言うのはさすがに言い過ぎで、最近では機械に負けない程度に喋りはするが。
 しかし、人と機械が接客対応、処理能力が同じなら、なにも人である必要はない、と言いたくもなる例に最近遭遇した。

マニュアルがない弊害も

 「お電話番号は何番でしょうか」。某明太子販売店のカウンター前に腰掛けると、モタモタとした動作でPCを開きながら、いきなりそう言われた。
「えっ、誰の番号を聞いている? 俺の? なぜ」
 とにかく、物を買いに行っていきなり電話番号を、何の前振りもなく聞かれたのは初めてだ。
 これがもし、うら若き女性からなら多少鼻の下を伸ばしたかも分からないが、年齢からすれば経験を積んだと思われる女性販売員から、いきなり電話番号を聞かれれば誰しも訝るに違いない。
 その後、2、3やり取りして、やっと相手の意図を理解した。要は過去に当店を利用したことがあるお客様ならデータがあるので、今回改めて紙に住所その他を書いてもらう手間が省けますから、登録している電話番号を教えて下さい、ということなのだ。それならそのように言えばいいのに、いきなり「電話番号は何番ですか」と来るものだからおかしくなる。

 一体この会社の社員教育はどうなっているのか。社員教育以前に、最低限の接客対応はどこの会社でもマニュアル化してあるはず。それもしてないのか。
 そういえばマニュアルによる一律の接客ではなく、心のこもった対応ができるように、マニュアル教育は導入していないというようなことをトップが語っていたような記憶があるが、それは記憶違いかなどと考えながら、小さな声で「新人か?」と尋ねた。もちろん嫌味である。するとどうだ。「はい」という返事。この時ばかりは「マジかよ」と今時の若者風に言いたくなった。

 で、その後は挽回すべきテキパキとやるのかと思えば相変わらずダラダラとPCを操作している。どうやら思った画面が出ないようなのだが、次の瞬間、思わぬ行動に出た。
 さっと立ち上がり「替わって下さい」と言ったのだ。こういう場合、普通は周囲の同僚か上司を見て「済みません。どうも操作がうまく行かなくて。替わってもらえますか」と言うものだ。ところがこの販売員、そんな素振りも見せず、いきなり立ち上がり、誰に言うともなく「替わって下さい」と言ったのだから、こちらは呆気にとられた。目の前の客を無視した無礼極まる態度に「なんだ君は!」と怒ることさえ忘れ、口ポカーン状態だ。
 ところが、その直後、側に居た別の販売員が何事もなかったかのようにスッと座り、実にテキパキとした動作でやり取りをするものだから、こちらは席を立って帰るのも忘れ、そのまま注文を終えたものの、いまどき珍しく接客態度の悪い販売員だった。

 それにしてもなぜ、このような販売員がいるのか。採用時の面接で見抜けなかったのか、それとも面接自体がいい加減なのか。あるいは採用後の教育が全くなされていないのか、人手不足でとにかく応募してきた人間を採用せざるを得なかったのか。

 この会社、老舗の明太子専門店として有名な会社で福岡市とその周辺に直営店を何店舗も展開しており、先頃、創業者の一代記がTVドラマ仕立てになり放映もされた。常日頃メディアで女性の活用や社員教育にも熱心とトップは語っていたが、現場の実態はあまりにも差があり過ぎた。
 蟻の一穴という言葉もある。看過して堤が崩れないようにしたいものだと、他人事ながら思った次第。

画竜点睛を欠いた対応

 明太子専門店を出た足で今度はイオンに向かった。両店とも玉串料返しの贈答品選びである。イオンはギフトコーナーがあったのでそちらで色々選び、カウンター前に腰掛けるとアルバイトと思しき若者から次のように言われた。
「以前に当店をご利用いただいていますと記録が残っていますから、お電話番号を知らせいただけるとすぐ記録が出せますが」
「いや今回初めてだから」
「かしこまりました。では、こちらの用紙にご記入をお願いいたします」
 そうそう、これだよ。なぜ、この程度のことが先の店では言えなかったのか。マニュアルは最低限の基本だから、まずマニュアル通りの応対を身に付け、そこから臨機応変な対応をさせるように教育すべきなのに、マニュアル否定だけでは教育放棄と同じことだなどと思う一方、さすがはイオンと感心していた。

                                                 (続く)

トイザらス・ベビーザらス オンラインストア


(著作権法に基づき、一切の無断引用・転載を禁止します)

トップページに戻る 栗野的視点INDEXに戻る





デル株式会社