分断する社会では独裁化が進む。(5)
〜相対的貧困が独裁の土壌に


相対的貧困が独裁の土壌に

「君等の生活が苦しいのは低賃金で働く移民のせいだ。移民を排除しろ」
「移民はメキシコ側から不法侵入している。国境沿いに壁を作り奴らの侵入を防ぐ」
 職を失い生活苦に喘いでいる白人貧困層やラストベルト(Rust Belt、錆びついた工業地帯)の生活者はこうアジテートされれば我が意を得たりと支持派に回るだろう。
 最初の支持を勝ち取れば次は支持をより強固にしていくことで、その手法は今も昔も同じだ。集団の外に2種類の敵を作ることである。1つは既存勢力(エスタブリッシュメント)で、もう1つは自分達が精神的優位に立てる相手を作りだし、差別の構造を作ることだ。ヒトラーのナチスはユダヤ人に、トランプは移民にその役を負わせた。

 かくして社会に分断が作り出される。そして分断が深まれば深まるほど自分達の階層を代弁する力強い指導者を待ち望み、熱狂的に支持するようになるが、その傾向は下の層ほど強くなる。

 絶対的貧困層が過半数を超えている場合、指導者は革命者として現れるが、近年、先進諸国でも絶対的貧困者が増えているとはいえ、まだ相対的貧困に留まっていると感じている層が多い。
 もう1つは分配すべき物資の絶対的不足はなく、ここでも相対的不足であるため、貧困が目立ちにくく、貧困を自覚しにくい社会状況になっている。身の回りを見渡すだけでも、モノは溢れており、過去の歴史のように収入不足と分配物資の絶対的不足から来る貧困は一部の開発途上国でしか見られず、20世紀に各地で起きた革命運動は起きにくい。

 その一方で、この国でも餓死する絶対的貧困者が増えているが、そういう状況は社会の中で見えにくくなり、多くの人が「出口なし」の状態で、どこにも持って行きようのない不満と不安を抱えながら生きている。
 「自助、共助、公助」だ。自己責任で努力しろ。最後にどうにもならなくなったら「生活保護がある」と言われれば、それは見捨てられたのと同じことを意味する。後には深い悲しみと絶望しか残らない。

 相対的貧困は不安定な状態である。もしかすると上の層に行けるかもしれないという幻想を持たせるし、まだ下に絶対的貧困層がいると思うことで、彼らよりはまだマシだと思ってしまう。幻想と絶望の間(はざま)にいると言ってもいいかもしれない。
 故に、この層は「失うものは何もない」と開き直ることができず、変革に突き進むより現状を容認(追認)する傾向にある。積極的容認でないとしても諦めの気持ちが強く、強い言葉を発するリーダーが出現すれば、それに従ってしまう。
 要は独裁者は自らの思惑で登場するのではなく、社会に独裁的な強いリーダーの登場を待ち受ける土壌が醸成されているが故の結果であるとも言える。




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