社会を変える3つの狂気(3)
〜共喰いする狂気


共喰いする狂気

 今かつてないほど悪の狂気が世界を覆っている。しかも、それは年々拡大、増大し、まるで邪悪な心が伝染するように犯罪が増えている。それも無差別殺人と言っていいような、因果関係が認められない、身勝手な犯罪が世界中で増加している。
 誰も彼もが怒っているが、怒りの矛先は社会変革でも政治でも独裁者でもなく、身近な相手に向かっているのが特徴だ。

 先に見た2つの狂気が大きな狂気だとすれば、これは小さな狂気。大きな狂気に立ち向かうのではなく、さらに弱い相手に向かう。
 それを端的に表しているのが「死刑にして欲しくて」人を殺したという、相手は誰でもいい殺人。自分より大きい相手に立ち向かっていく「狂気」は持ち合わせてなく、自分より弱い相手を選び、突然襲い、自分より大きな相手に自分を殺してくれと望む、まともでない狂気。
 こうした邪悪な狂気に支配されているのは日本だけではない。世界中で同じような無差別殺人が行われている。

 それにしてもなぜ、ここまで邪悪な狂気が世界を覆い、世界中に広がっているのか。その原因や理由について様々な解釈が個別になされているが、全般的に共通している、納得できる理由や原因を説明しているものに出合ったことはまだない。
 ただ言えるのは「共喰い」を始めた種はやがて滅亡するということだ。一般的に種は共喰いを(極力)しない。共喰いは自分が生きるためかもしれないが、種そのものの生存まで危うくし、やがては自らも存在していけなくなるからだ。
 生物はいかなるものも単独では生きていけない。集団で存在しているから生存できており、個体数が減少すれば希少生物から絶滅危惧種になり絶滅していく。それが自然界の法則である。

 ホモ・サピエンス・サピエンス(現生人類)が地球上に「君臨」できているのは個体数が増え、多くなったからである。ところが今、ホモ・サピエンス・サピエンスは共喰いを始め、個体数を減少させようとしているし、個体数が減少しつつある。
 いや地球上の人口は増加していると言うかもしれないが、そうではない。世界人口は確実に減少に向かっている。国連推計によれば2055年がピークで、それ以降は減少に転じるとしているが、実際にはもっと速いペースで減少していくだろう。
 すでに先進国の人口は減少しつつあるし、人口が増えていた中国でさえ今、深刻な少子高齢化に悩まされている。「一人っ子政策」の影響だと言われているが、それだけではない。生産人口減少に危機感を抱いた中国政府は「一人っ子政策」を廃止し「二人っ子」まで認めたが出生数は増えず、現在、3人まで認め、推奨しているが、結果は思わしくない。

 中国だけではない。他のアジア諸国も近い内に中国同様、少子高齢化に悩まされることになる。そこに持ってきて「共喰い」による個体数の減少だ。「共喰い」の最たるものはもちろん戦争だが、それ以外にも先進国で目立つのが無差別殺人と家族・親子間殺人。
 動物の世界でも母親と子の共喰いはない。オスがメスやその子を襲うことはあってもメスが自分の子を襲うことはない。それが行われると種が絶滅すると知っているからだ。ところがいま人間界では家族・親子間殺人が行われるどころか増えている。その先に見えるのは種の絶滅である。

 我々はこの狂気を止められるのか。それとも種の絶滅に向かって進み続けるのか。
 残念ながら希望的観測は持ち得ない。すでに「共喰い」を始めたホモ・サピエンス・サピエンスはやがて絶滅危惧種になり、新たなホモ・サピエンスに取って代わられるに違いない。ただし、別のホモ・サピエンスがどこかに存在していればの話だ。もし、そうでなければこの星からホモ・サピエンスは消え、別の生物が取って代わることになるだろう。
                                           次に続く


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