権力の甘い蜜の罠に堕ちた男達(4)
〜日本もいる「ホセ・ムヒカ」


権力は最も甘い蜜の味

 それにしても人はなぜ権力に執着するのか。それは甘い蜜の味がするからで、その味は直接、間接を問わずカネと結び付いている。都知事に限らず国会議員でさえ無料交通パスが利用できるし、様々な名目の下、視察という名の海外旅行が公費でできる。
 舛添氏の公私混同が議会で問題になった後でさえ都議会議員はリオへ大挙して視察に行くことに何の問題意識も持たなかった(辞退したのは共産党議員達だけ)のだから、彼らの頭の中は甘い蜜を吸うことしかないと言われても仕方ない。

 例えば富山市議会。舛添問題のさなかの6月15日、本会議で議員報酬を10万円引き上げ、月額70万円にする条例改正案を賛成多数で可決している。議員報酬70万円は金沢市、東大阪市と同額であり、人口40〜50万人の中核都市では最高額。
 この時期、議員報酬をアップしなければならない根拠は一体なんだと訝るが、多数を占める自民党議員の発案、賛成で決まったようだ。
 福岡県北九州市議に至っては2年半、市議会を欠席しながら3,340万円の議員報酬を満額受け取っている。欠席理由は病気とのことだが、長期間議員活動ができないのであれば議員辞職を申し出るのが一般常識と思うが、「皆さんに大切な議席をいただいた。私にしかできないこともいっぱいある。市民の代弁者として職責を全うしたい」と辞職を否定(2016年3月2日)し、今後も「議員活動」を続けるらしいから呆れてものが言えない。一般企業なら医師の診断書提出、給料は基本給の何割カットだろう。

 議員というのは一度当選してしまえば本会議を欠席しようが長期欠席しようが議員報酬は支払われるようになっており、減額規定等がないのが問題。
 因みに舛添氏は「最後のお願い」で今後は無報酬でいいから不信任決議案の提出は9月まで待ってくれと言ったが、その前の段階では「『身を切れ』という批判があったので」知事報酬カットを考えているが「減額幅は検討している」と答えている。何をかいわんやだ。自ら何%カットを申し出るのではなく、「身を切れ」と言われたから給与をカットするが、いくらカットするかはまだ決めてない、と言うのだから何とも人をバカにした話で、これでは「最後のお願い」で無報酬を申し出ても言葉通りに信じる人は誰もいないのは当たり前だ。まあ、これほどカネに執着する人は珍しいが、彼が退職時に受け取るカネは退職金の2,200万円+夏のボーナス380万円。皆とは言わないが、議員になりたがるはずだ。

 まるで蜂が蜜に群がるように、恵まれた給与+特権を求めて議員、知事になる輩がいれば、その周囲にこれまた蜜を求めて群がる連中もいる。では、選挙でそういう関係を断ち切るのかと思えば、この国の民もいい加減だから、選挙の時はまた別の物差しを持って来て投票行動をする。だからいつまでたっても変わりはしない。結局、この国の民自身の中に甘さがあるのかもしれない。

日本にもいる「ホセ・ムヒカ」

 だが、悲観材料ばかりではない。議員、地方首長の中にも数は少ないが清廉の士はいる。
 例えば栃木県那須塩原市の前市長、阿久津憲二氏(72歳)。2012年に給料の3割カットと退職金ゼロを公約に掲げて当選し、自らの給料を減額する特例条例を定めて同年4月以降の給料を3割カット。同時に、退任時の給料を1円と定めていたから2016年1月21日に退任した時受け取った退職金はたったの20円だった。

 和歌山県北山村をご存じだろうか。奈良県、三重県、和歌山県境にある人口450人程度の小さな村だが、和歌山県といっても和歌山県のほかの市町村と接してない飛び地村だ。最近では「じゃばら」という柑橘類で有名だから、花粉症で悩んでいる人はご存知かもしれない。「じゃばら」に含まれているナリルチンという成分が花粉症に効果があるという研究結果が最近発表され注目されているが、ナリルチンそのものは柑橘類に含まれている成分。ただ驚くのはその量で、柑橘類の中では最も多く含まれているユズと比べても6.5〜7倍の量が「じゃばら」に含まれているのだ。しかも「じゃばら」は世界中で北山村にしかない。

 話が少し横に逸れたが北山村の奥田貢村長(74歳)が「日本のホセ・ムヒカ」として、舛添問題以降にわかに脚光を浴びている。公私混同ぶり、高額出張費などで批判を浴びた舛添前都知事の対極に位置し、「世界で一番貧しい大統領」として注目を集めたウルグアイのホセ・ムヒカ前大統領と並び称せられているからだ。
 2004年から自らの給料3割カットを続けているし、東京出張でも宿泊はビジネスホテル、もちろんグリーン車にも乗らないし、出張中の食事も領収書はもらわない(自腹)。公用車は職員と共同等々。誰かさんとは大違いだ。

 ただ残念なことに那須塩原市の阿久津氏は今回の選挙で敗れ、市長退職。北山村の奥田村長も健康を理由に今期で村長を退職する。問題は次期市長、村長が前任者と同じく私利私欲を排し、清廉な政治を継続するかどうかだ。北山村の方は恐らく継続するのではと推察するが、那須塩原市の方はすでに前市長とは違うことを打ち出し、旧来の自民党政治に戻っているようだ。
 こうしたことを考えれば、結局この国の政治が貧しいのは国民のレベル的貧しさこそが原因と言わざるを得ない。




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