「2000万円」問題の裏に隠されていた本当の恐ろしさ(2)
〜政府の方針と違うものは認めない


政府の方針と違うものは認めない

 「2000万円」という金額は別にして、審議会で議論しまとめた報告書を「政府の方針と違うから受け取らない」と平然と言い放った麻生大臣をはじめとした政権の態度には恐ろしさを覚える。
 この報告書をまとめたのは金融審議会の作業部会である。いわゆる有識者会議というやつだ。私もこの種の会議に呼ばれ霞が関まで行ったことがあるが、会議に何度か参加して分かったことがある。一つは大まかな方向性は事前に決められていて、少なくとも作業部会の会長とは擦り合わせが行われているということだ。まあ、そのこと自体はそれほど変ではない。ある程度の方向性も分からずに議論すれば収拾がつかなくなる可能性がある。それでは時間と労力をムダに消費するからだ。

 もう一つは参加メンバーは想定された方向性に沿って当初から集められている。違う主張をする人がいても、その枠内でのことであり、「コップの中の嵐」程度には異論があってもいい、その方が面白いが、違う「コップ」にいる人は当初からメンバーになってない。
 「御用学者」が集められているとまでは言わないが、要は主催者サイドと見解がまったく違う人は最初からメンバーに入れられていないのだから、主催者サイド、今回の場合で言えば政府・金融庁の意に沿わない報告をするはずもない。
 にもかかわらず、提出された報告書が「世間に著しい不安、誤解を与えている。これまでの政府の政策スタンスとも異なっている」から、報告書そのものを「受け取らない」と言い放ったのだから異常である。

 「2000万円」という金額が独り歩きしている感はあるが、公的年金だけで老後の生活が賄えない(特に国民年金では)のは明らかだし、今後、年金支給額が増えることはありえないわけで、支給額が減少していくのは人口問題からも明らかだし、以前から分かっている。だから公的年金以外に手を打っておかないとダメだというのが報告書の趣旨だろう。
 どこが「政府の政策スタンスとも異なっている」のかよく分からないが、問題だと彼らが考えたのは「2000万円」という必要金額で「世間に著しい不安、誤解を与え」たと考えたことなのだろう。

 大多数の国民は公的年金だけでは老後の生活が送れないということはある程度分かっている。では、どれぐらいの蓄えが必要なのかと不安になっているところに、いきなり「2000万円必要」と言われれば、「2000万円」も蓄えがない人間は100歳まで生きるなということかと怒りたくなるのは当然だろう。特に麻生氏のような金銭感覚の持ち主から口をゆがめて、べらんめえ調で言われると「何を言ってやがる」と反発したくなる。
 この反発が政府は怖い。参議院選挙が日程に上がっている時に有権者を敵に回したくない。メディアで騒がれるだけで票が逃げる。そう考えるから、あの報告書は金融審議会作業部会が勝手に作成したもので、「政府の政策スタンスとも異なっている」から「受け取らない」と言ったのだ。
                        (3)に続く

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