10・21国際反戦デーを闘う
「Nさんが来たんや。Nさんが残れという指示が行ったんやと思ってたけど」
再会した大阪の仲間たちはNたちを歓迎してくれる一方、残って組織を守るはずのNが来たことへの疑問を口にした。
「うん、そうやねん。けど、まあ色々あって俺が来ることにした」
「そやけど、後は大丈夫?」
「うん、大丈夫や。心配ない」
その場の皆にというより、自分に言い聞かせるように言った。
「そう。ならいいわ。皆さん遠いところよう来てくれはった。ありがとう」
Nと一緒に来た仲間を動揺させないように、彼らはその場ではそれ以上聞かなかった。聞かなくても分かってる、というように頷き「Nさんも大変やね」とだけ言った。
「明日は頑張ろうな。まあ、今日はゆっくりしてや」
前回会ったことがある社会人の彼がNの肩をポンと叩いて、Nが連れて来た仲間たちに声をかけた。
「分かってる。日和る奴はいつでもおる。だけど入ってくる奴もおるから、頑張ろう」
言葉には出さなかったが、彼の目がそう語っていた。
翌日、Nたちは彼らの指示に従った。
「Nさんたちはぼくらの後に付いて来たらええわ。大丈夫や。何かあってもぼくらが守るから」
御堂筋は懐かしかった。高校を卒業し難波の予備校に通っている頃、高校の同級生の彼女と大丸の御堂筋側で待ち合わせ、心斎橋筋を2人でよく歩いていた。
まだ喫茶店に入ることも知らなかった2人は目的もなく人の流れに乗って心斎橋筋をただ歩くだけだったが、御堂筋はNにとってそんな思い出の場所だった。
だが、そんな思い出に浸る時間も余裕もなかった。
広い御堂筋をデモ隊が埋め尽くし、周囲を見る余裕もなく、前にいる人間の腰ベルトを掴み駆け足のジグザグデモが始まって間もなく、突然、隊列が崩れた。
前の方でなにやら起きているらしく、怒号が聞こえ騒がしくなった。Nたちは大阪の連中から「君たちは後ろの方から付いてくるといい」と指示されていたから前の方で何が起きているのか分からなかったが、周囲の人間が皆一斉に前へ走り出した。
どうやら前方で機動隊との衝突が始まったらしい。
デモ隊の隊列が乱れ、その場に緊張が走った。前方に向かって走る者、横に広がり駆けて行く者、怒号を上げ進む者、走りながら投石する者。その場を怒りが支配し、誰も彼もが興奮していた。
周囲を見渡すと、E大から来た仲間たちは誰もいなかった。斜め前方の集団の中に理学部の後輩の姿がチラッと見えたが、彼はいきり立ち何かを叫んでいるように見えたが、言葉は分からなかった。
「頑張れよー」
沿道から声をかける野次馬、御堂筋に走り込みデモ隊と一緒に走る者。そういう大きな流れに浮かぶ小舟のようにNたちも「ウォー」と声を上げ、走った。投石している者たちの後ろ姿が目に入る。だが、その先は見えない。
前方から逃げてくる者もいるし、後ろから走って来る者もいる。最前列はまだかなり先のようだが、ぶつかり合っている場所がどの辺りなのか、自分が今いる場所がどこなのか、まるで分からなかった。
どこをどう走ったのか、どういう風に帰ったのか、Nは後で思い返しても分からなかったが、午後8時頃には全員が揃った。
「よかった。皆、無事だったか」
「いやー、すごかったですね。でも、やりましたよ。投げてきましたよ」
理学部の田山がまだ興奮冷めやらぬ様子で武勇伝を披露した。
「石投げられるぐらい前の方まで行ったんか」
「ええ、ここまで来たからには頑張らないかんと思いまして」
「よう石があったな」
「いや、たまたま下を見たら転がっていたもので。誰かが投げたヤツが落ちていたんでしょうね」
誰の顔もまだ緊張で紅潮していた。それと同時に一仕事終えた後の安堵したような表情も見えた。
Nたちの「10・21」闘争は当初想像していたほど激しくも、華々しくもなく終わり、再び大学へ戻り「日常」の闘争の中に身を置いた。
次回に続く
#国際反戦デー
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