「横並び」が日本を救う。(3)
〜ネットと実店舗を融合するスーパー


 消費者が来店しなければ消費者のところに出向くしかない。そう考えるのは当たり前で、商品の販売スタイルを元の行商スタイル、御用聞きスタイルに戻しだした。その代表が宅配ビジネスだ。これは生活協同組合や弁当業界等が主として担っている。
 宅配は便利だが問題点もある。それは食べたいものを前もって(1週間前後前に)決めて注文しなければいけないという点だ。
 人の嗜好はスケジュール通りにはいかない。今日○○を食べたいわけで、3日後にそれを食べたいわけではない。少なくとも私はそうだ。しかし宅配ビジネスの献立は前もって決められている。もちろん、その方が楽だと思う人もいるだろうが、たまには違うものを食べたいと思うこともあるだろう。宅配ビジネスはそこに対応できていない。
 また宅配ビジネスは多くの場合、会員制を取っており、決められた日時に決められた場所で注文品を受け取るシステムだ。これが一見便利なようで面倒くさい。その日が都合が悪いと他の会員に代行で受け取って貰わなければならない。そういうことを嫌がる人もいる。とまあ、一長一短あり、便利に思える宅配ビジネスも会員数が伸び悩んでいる。

 移動販売車で過疎地を廻るスタイルの方は昔から続いている。例えば岡山県高梁市吹屋地区(かつてベンガラで栄えた地域で、往年の古い町並みが残っている)を訪れた時、高齢のご婦人と立ち話をし、買い物はどうしているのか尋ねたことがある。実は過疎地を訪れると地域の人を捕まえて同じようなことをよく聞いている。蒜山茅部地区を桜の季節に訪れた時も同じようなことを聞いたが、吹屋では折よくトラックで魚を売りに来ている人に出会った。聞けば鳥取から月に1、2度来ているという。肉は別の日に違うトラックが売りに来ると客のお婆ちゃんが言っていた。
 山間部で生魚が食べられるのは移動販売車で廻ってくる人がいるからだが、それと同時に別の考えが頭を過ぎった。魚、肉それぞれに得意分野があるのだろうが、消費者の立場に立てば魚と肉を1台の車に積んで持ってきてくれた方がいい。第一、過疎地、高齢者に限らず、いまは魚1匹を丸ごと買う人はほとんどいないだろう。街中のスーパーでさえ個食対応をしている時代だ。小分けして売ってくれたらどんなに買いやすいか、と。

 一方、売る側にしてみればガソリン代を使って遠方の過疎地を廻るのはお世辞にも効率がいいとは言えない。販売数量で稼ぐか販売額で稼ぐかとなる。客が少なければ1人あたりの単価を上げたいと考えるだろうし、輸送費を含めたコストのことを考えれば週1の巡回も難しい。
 結局、商売として考えれば割がいいものではない。いや、むしろ割は悪い。それでも昔からの馴染み客がいるから自分が元気な内は廻りたいが、後を引き継ぐ後継者はいない。あるいは後継者にはこの商売はさせられないと考えている。
 では、移動販売が来なくなればどうなるのか。地方が抱えている問題は根深く、複雑だ。国はコンパクトシティー化をさらに推し進める考えのようだが、生まれ育った地、先祖代々の土地を捨てて、比較的近くとはいえ別の場所に移り住む人がどれくらいいるだろうか。せめて自分の代までは、と考えるのではないだろうか。

ネットと実店舗を融合するスーパー

 従来型移動販売には次のような問題があった。
1.取扱商品が縦割り。魚なら魚だけ、肉なら肉だけという単一ジャンルの商品が多い。
2.移動販売車が2tクラスの大型トラックで、小回りが利かない。
3.小型移動販売車も見かけるがほとんどがパン屋か弁当屋。中には移動スーパー的なものも存在するが、数が非常に少ない。

 つまり、こうした問題点を解消した移動販売車こそが望まれるし、望ましい。食品メーンのコンビニや超小型スーパーを軽トラックに載せて過疎地を廻る移動販売車と言えばイメージしやすいだろうか。

 ところで、移動販売と宅配はどこが違うのか。宅配は事前に受注した商品を届けるシステムなのに対し、移動販売はその場で商品を見て買うシステムだ。販売側から見れば宅配の方がムダがなく、効率的だ。
 一方、何種類もの商品を載せて売りに行く移動販売車の場合は日によって売れるもの、数量、売上高が異なる。宅配と異なり、商品が売れ残ることもある。
 こうしたリスクを抱えながら車で廻るわけだから、まさに現代版行商である。効率主義の観点に立てばとても成り立つ商売ではないし、また効率経営を標榜するスーパーなどが進出を考えるはずもない分野である。
 せいぜいスーパーが行えることは「ネットと実店舗の融合」と言えば聞こえはいいが、形を少し変えた宅配ビジネス。ネットで注文を受け付け、その商品を自宅に届けるというもので、これは自社店舗の延長線でしかない。故に配達エリアも店舗の営業エリア+α程度に限られる。生活協同組合などの宅配と違う点は前日に注文すれば翌日には届けられるという点だ。
 これでは都心部の買い物弱者に対応できても過疎地の買い物弱者は相変わらず置いてきぼりにされている。それでもスーパー業界が横並びで移動販売(宅配)に乗り出してきたのはいいことだ。

 コンパクト化という観点ではコンビニ業界がお手のもので、コンビニが移動販売車を運営するのが最も理(利)に適っているように思える。実際、東北大震災直後にセブン・イレブンなどのコンビニが移動販売車を派遣する動きがあった。それを機に全国で運営するのかと思ったが、そうした動きはないようだ。
 考えてみればコンビニこそ効率化の権化。非効率な移動販売車をビジネスとして運営する思考はない。あるのは試行で、災害時等に一時的に派遣するぐらいだろう。
                                            (4)に続く

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