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凶悪犯罪は増えているのか
〜横溝正史も注目した日本犯罪史上空前の惨劇〜



 最近、毎日のようにメディアが報じる殺人等の凶悪犯罪(殺人、強盗、放火、強姦)−−。近年、こうした凶悪犯罪、特に無差別殺人が増えているような気がするが、歴史を紐解けば日本犯罪史上空前の殺人事件は昭和13年に起きていた。横溝正史の小説「八つ墓村」の舞台になった「鳥取県と岡山県の県境にある山中の一寒村」で発生した大量殺人事件がそれだ。わずか23戸の小さな部落で32人が1晩に殺傷されるという前代未聞の大事件だったが、最近の無差別殺人事件と共通する点もある。

凶悪犯罪は増加しているのか?

 近年、凶悪犯罪が増えているのではないか。漠然とそうした感じを抱いていたが、調べてみると意外や意外、逆に減少しているのだ。
 以下、凶悪犯罪(殺人、強盗、放火、強姦)と殺人の全国発生件数を記してみる。以下の数字は「犯罪統計書」を基に横須賀市地域安全課がまとめたもの。

    凶悪犯罪合計  殺人
 昭和10年 8,559人 2,315人
 昭和15年 5,001  1,513
 昭和20年 3,596   919
 昭和25年 16,176  2,892
 昭和30年 14,912  3,066
 昭和40年 14,279  2,288
 昭和50年 9,702  2,098
 昭和60年 7,425  1,780
 平成 2年 5,930  1,238
 平成10年 8,253  1,388
 平成15年 13,658  1,452
 平成19年 9,051  1,199
 平成20年 8,581  1,297
 平成21年 8,314  1,094
 平成22年 7,576  1,067
 (出典:横須賀市のHP

 これを見て分かるように殺人件数が最も多かったのは昭和30年の3,066件で、その後件数は減少傾向にある。
 にもかかわらず、増加しているような感覚だったのはなぜだろう。はっきりしたことは分からないが、メスメディア、特にTV報道のせいではないかと思われる。
 犯罪の質(残虐性)も昔と大差ないようだが、ただ一つ違いがあるのは「理由なき殺人」。特にこの1、2年、「相手は誰でもよかった」「死刑になるために殺した」という本末転倒、非常に自己本位な殺人が増えていることはちょっと注意を要する。

津山30人殺し

 「津山三十人殺し」(新潮文庫、著者:筑波昭)に初めて出合ったのは5、6前だった。津山の書店で、平積みされた単行本が目に付き手に取ったが、その時初めて「八つ墓村」のモデルがこの事件だったことを知った。その時はパラパラとページをめくっただけで、元の場所に戻したが、今年になり、津山の別の書店で今度は文庫本になった同書が目に入ったので、今度は買った。
 そして5月、同じく津山の書店で、この本を見つけ、以前買ったことも忘れまた買った。書籍の二重買いをしたのはこの時が初めてだっただけに、ああ、いよいよ認知症が出はじめたかとショックを覚えた。だが、同じ本を二冊買いしたのはよほど縁があったということだろうと思い直すことにした。実際、なにかしらの縁があったようで、この春、尾所(おそ)の山桜を撮りに行ったが、その部落が惨劇があった部落のすぐ隣りだった。撮影に行った時はそのことを知らなかったのだが。もう一つはこの本で同時代の多くのこと(例えば阿部定事件)を知り得たことである。

 この本はフィクション、いわゆる小説の類ではなく、ノンフィクション、ルポルタージュであり、著者は元新聞記者である。
 事件が起きたのは昭和13年5月13日午前1時40分頃というから、まさに草木も眠る丑三つ時。それから犯人が猟銃自殺をする同日午前5時頃まで3時間程度の間に「悪鬼のごとく荒れ狂い、深い眠りに落ちていた附近民家を片っ端から襲い、29名を射殺または斬り殺し」たのだから、まさに「日本犯罪史上空前の惨劇」である。重傷者の1人が数時間後に死んだので、死者は30人に上った。

 殺人犯は同日未明に猟銃自殺したため、遺書が3通残されているとはいえ犯行に至る肝心の動機は解明されないままだ。小説ならいざ知らずノンフィクションでこうした事件を扱うのは難しい。少なくとも348ページも書く材料がない。警察調書や周辺の証言などを入れたとしても100ページもあれば事足りるだろう。それを著者は長編の作品に仕上げたわけで、その筆力に感心すると同時に、こういう書き方があるのだと大いに勉強にもなった。

動機は自分勝手な思い込み

 この事件のことをご存じない読者のために概略を記しておこう。
事件発生:昭和13年5月13日午前1時40分頃〜午前5時頃
死傷者:32人
犯人:当時22歳。結核を患い、徴兵検査の結果は丙種。そのため徴兵もされず、学校にも行かず、病弱を理由に家の農作業もせず、ブラブラしていた。
 病弱と聞けば顔色は青白く、痩せた男を想像するが、「肉付きもよく顔色も良く」、残された写真(撮影年次不詳)からもそのことが窺い知れる。
動機:当時、結核を治すには栄養を付けるのが一番と考えられており、彼も栄養価の高い物を摂っていたようだ。有り体に言えば、若い男が栄養価の高いものを食べ、労働もせずブラブラしていれば、精力を持て余すことになる。
 当時、日本の農村部にはまだ夜這いの風習が残っている地域もあり、彼が育ち、生活していた部落にもそうした風習が残っていたようだ。彼は部落の大半の女性(未婚既婚を問わず)と関係。しかも、そのうちの何人かには金品の代償を与えていたようだ。にもかかわらず、それらの女性からその後冷たくされ「事実のない事まで造り出して」ののしられたたため復讐を決意する。
 これが直接的な動機、身勝手な動機である。

「病気・・・から自棄的気分も手伝いふとした事から・・大きな恥辱を受けたのだった。・・とりかえしのつかなぬ痛手を受けたのだった。・・僕はそれが為世間の笑われ者になった。僕の信用と言うかはた徳と言うかとにかく人に敬せられていた点はことごとく消滅した。顔をよごされてしまった。僕はそれがため此の世に生きて行くべき希望を次第に失う様になった」(犯人の「書置」)
 要は女性達と次々関係を持ち、なかには金品さえ渡していたのに、その後冷たくされ、女癖の悪さを言い触らされたため部落に居づらくなっただけである。
 たったそれだけの理由で部落中の人間の殺傷を考えたのかと驚くが、昨今の無差別殺人事件犯人の言い訳と非常に似通ったものを感じる。特に秋葉原無差別殺傷事件、広島マツダ本社工場殺傷事件、さらに「死刑になりたくて」2人を殺害した大阪・ミナミの通り魔殺人事件などと、動機の身勝手さが共通している。
 身勝手といえば、「由来岡山県人は利己的排他的」らしい。そういえば数千万円もの年収がありながら母親に生活保護費を受給させていた芸人は岡山出身だった。津山市の観光大使にもなっていたようだが、そちらは例の件以後辞退。
                                              (2)に続く

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