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TPPを考える場合に重要な視点(3)
〜輸出主導の景気回復はあるのか


6.輸出主導の景気回復はあるのか

 結論から言えばノーだ。
もはやアジア経済危機の時のように輸出主導で景気回復を期待することはできない。
なぜなら輸出の受け皿になる国がないからである。
 アジア危機の時はアメリカが輸出受け入れ国となり各国経済を支えたが、現在のアメリカにその力はない。むしろアメリカ自身がなりふり構わず他国へ輸出を増やそうとしている。しかも、アメリカ経済は回復の兆しすら見えないどころか、長期不況に陥り、若者の失業が大問題になっている。ニューヨークでは暴動が起きているほど、アメリカの国内事情は厳しい。

 では、EUはどうかというと、ギリシア危機がEU全体に拡大するのを阻止できるかどうかという厳しい情況。とても輸出先にはなれない。ユーロ安も当分続くだろう。
 ドル安にユーロ安。ついでに言えば韓国のウォンも通貨安。比較的安定しているのが円で、行き場を失った資金が比較的経済が安定している円に流れ、円買いが行われ、結果、円高が続いている。
 決して日本の実体経済がよくて円高になっているわけではないが、円高は輸出にマイナスである。

 では、今後内需が期待できるのはどこかといえば、成長著しく、人口も多い中国とインドしかないだろう。
 とはいえ現段階ではまだ両国とも輸出国である。中国経済もアメリカ市場への輸出で成長してきた。しかし、世界経済が不況になってきた現在、中国は内需を増やす以外に方法がない。このことは中国指導者層も分かっているはずだが、韓国にFTAを強力に働きかけるなど、中国はまだ輸出に力を入れ、自国経済を発展させようとしている。アメリカの圧力にも関わらず、中国が人民元切り上げに応じないのもここにある。いまやどこの国も自国通貨安政策を取りたいのだ。

7.関税ではなく通貨安こそが問題

 TPPの問題は実は為替とアメリカの国内事情、さらにいうならオバマ大統領の再選戦略と密接に関係した問題である。
 それをバカな菅前首相が「開国か鎖国か」というような訴え方をして問題をすり替えたから、マスメディアも一体となって政府方針に世論を誘導しようとしていることこそが問題である。

 オバマ大統領は大統領に就任する直前の予備選まで自由貿易協定には否定的な見解だった。米韓FTA条約が4年間批准されず、やっと今回アメリカ議会で批准されたのもそのためである。
 この4年間でオバマ大統領の見解を変えさせたものは何か。アメリカ経済の急激な悪化と、それに続く長期不況(いまや全米暴動一歩手前まできている)である。
 経済回復のためには輸出しかない。相手国はどんな小国でもいいから、とにかく輸出を増やし、国内の失業率を少しでも改善したい(小国相手では失業率改善とまではいかないだろうが、少なくともこれ以上の悪化は防ぎたい)、そのためにはなんでもするというのがアメリカの本音である。通過安政策もそのひとつである。
 今回の米韓FTAが米国議会で批准された直後、オバマ大統領は「7万人の雇用が生まれる」と国内向け演説で言ったのを見聞きした人も多いだろう。このようにアメリカが他国と自由貿易協定を結ぼうとする真の意図は国内経済問題にある。

 なぜドル安が変わらないのか、ドル安になっているのはいつ頃からかをちょっと考えてみれば、こうしたことはすぐ分かるだろう。
 アメリカもユーロ圏も、円高に対して協調介入をしない理由はここにある。最近では口先介入すらない。自国通貨安の方が輸出に有利だからだ。そのために「市場開放」を迫っているのである。
 ここまで読めば懸命な読者はもう分かっていると思うが、TPPの問題は農業が主問題ではない。「農業を守れ」というのはTPPの問題の中のほんの一部分の問題でしかないのだということが。
 問題の本質を理解せずに反対するのは問題を矮小化することでもある。

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