「巣籠もり」作戦は本当に正しいのか、事態を打開できるのか。(4)
〜都市封鎖、巣籠もりは有効か


都市封鎖、巣籠もりは有効か

 先にも述べたが日数の経過とともに怯えから冷静さを取り戻し始めた人々は、今回のことをより多角的、科学的に捉え直そうとしだしている。
 1つはロックダウンの検証だ。感染を避けるために人と人の物理的距離を取ること(ソーシャル・ディスタンシング)は有効だが、都市封鎖(ロックダウン)や、それに準じる「巣籠もり」がどこまで有効なのか検証する動きがある。
 すでに見たようにEUの中で都市封鎖策を採らないスウェーデンの死者数が都市封鎖をしているアメリカ、イギリス、イタリア、スペイン、フランスに比べ随分少ないことは注目に値するだろう。
 これは都市封鎖の有効策を唱える側からすれば「不都合な真実」かもしれない。スウェーデンの死者数はもっと多くなるはずだと考えたが、実際はその逆なのだから。

 都市封鎖と感染抑圧との間に相関関係があるのかないのか。それについて興味深い調査結果が4月以降、アメリカとイギリスで発表されている。
 前者は「100万人当たりの死者数と、ロックダウンまでの日数の関係」を調べたが「相関係数が5.5%と極めて低かった」ため、「相関がないという結論」に行き付いたと述べている。
 「各州の死亡率には大きな差」があり、「オレゴン州の死亡率は人口100万人当たり20人」なのに対し「ニューヨーク州は同360人」と大きなばらつきがあるが、それは「人口密度や地下鉄の利用度といった他の変数の方がより重要」であり、「感染による死亡率が低い場所でむやみにニューヨーク州の方針を模倣しても意味がない」。
 これはサイプレス・セミコンダクタの創業者で元最高経営責任者(CEO)のT・J・ロジャース氏らによる調査結果である。
 この説に従えば「人口密度や地下鉄の利用度が高い」東京と同じ方法(準都市封鎖、巣籠もり)を他都市が模倣する必要はないということになる。

 次はイギリスのイースト・アングリア大学(UEA)の研究チームが5月6日に発表した研究論文である。
 同チームが調査研究したのはイギリス、ドイツ、フランスなど欧州30カ国で、「ソーシャル・ディスタンシングに基づく施策が新型コロナウイルス感染症の感染者数や死亡者数の減少にもたらす効果について」分析した研究論文。「メドアーカイブ」で公開されている。ただし未査読(研究者や同分野の専門家による評価や検証がまだなされていない。未審査の論文)だ。

 同研究チームによると「人々が集まるレストランやバー、レジャー施設、イベント会場の閉鎖も感染拡大の抑制に寄与した」が、「これら以外の業種における営業停止は、感染拡大の抑制にほとんど影響がなかったとみられる」。
 また「外出禁止は、COVID-19の発生率の減少との相関がなく、むしろ外出禁止の日数が増えるほど、感染者数は増加した」とのこと。
 興味深いのは「巣籠もり」する日数が増えるほど、逆に感染者数は増加したという点である。

 これら2つの調査研究から最低限導き出されるのは「都市封鎖(営業自粛などの準都市封鎖を含む)や巣籠もり」が感染拡大を抑制する有効策とはならないということのようだ。

高齢者、基礎疾患持ちこそ巣籠もりを

 最後にもう一度、感染者数と死者数に戻り、死者数を抑えるにはどうしたらいいかを考えてみよう。
 現在、医師を含む科学者の間で一致しているのは、地球上のウイルス(SARS-CoV-2を含む)とは共存していく以外にない、ということである。とすれば感染を100%防ぐことは不可能になる。できることは抗ウイルス薬やワクチンを開発する、ウイルスを弱毒化する、感染力を弱めるということぐらいだが、ワクチンの開発にはまだ少し時間がかかりそうだ。

 そこで現段階で可能な最も現実的な方法は何かを考えてみよう。そのためには感染者数より死者数の方が重要になる。
 というのは感染しても軽症で終わる人(中には無症状でいつの間にか治っていた人もいる)と、感染すると重症化する人がいるが、重要なのは後者を減らすことである。

 感染後、重症化した人に共通する特徴は現段階でもある程度分かっている。圧倒的に多いのが高齢者だ。特に介護施設の入所者は体力、免疫力が落ちているし、味覚・聴覚異常などの症状の自覚が薄いこともあり、気付くのが遅れ、手遅れになる可能性が高い
 その次が基礎疾患(糖尿病、心不全、呼吸器疾患、透析を受けている、免疫抑制剤や抗がん剤の治療を受けている)がある人や糖尿病等を抱えている人である。

 つまり上記の人に注意を徹底的に呼びかける、徹底的に注意する。発症した場合も上記の点をまず確認し、優先的に治療する等の対策を取れば死者数を減少に転じさせられるのではないか。
 一律の都市封鎖、一律の巣籠もり要請は無意味だろう。

 ただこのウイルス(SARS-CoV-2)によって引き起こされるメカニズムの詳細についてはまだ分かってないことが多い。
 ごく最近、明らかにされつつあるのが人工呼吸器を使うことの逆効果や血栓を引き起こす点などだが、もう少し事例を集め、分析していく必要があるだろう。ただ欧米でも少しずつ冷静さを取り戻しつつあるようだから、今後、さらなる分析・研究を続けて行くことで相手のより詳細な正体が見えてくるはずだ。

 最後に再度念押しを。高齢者、基礎疾患がある人、糖尿病の人、免疫力が落ちていると感じている人は極力人混み、皆で大声を上げたり歌うような場所は避けることをお勧めする。
 これって田舎に移住した生活をしなさい、ということか。

 蛇足でもう一言。第2波、第3波の世界的流行はない(小さな流行程度はあるかもしれないが)だろう。
 メディアでスペイン風邪を引き合いに出し、しきりに「第2波、第3波」と言っているが、以前にも指摘したようにスペイン風邪は第一次大戦で兵士の間に大流行した症状で、第2波は戦地から戻った兵士によって感染が広がったものだ。
 当時と今では医療の水準が比較にならない程違っている。むしろ問題は難民キャンプ地での広がりをいかに防ぐかだろう。         



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