日本大地図 全3巻

 


歴史は進歩しているのか、それとも退歩か(1)


 時代は本当に進化しているのか−−。ここ数年、そのことを自問自答し続けてきた。古代から現代へ、時代は進歩し続けているはずである。だが、それは本当に正しいのか。そう問う声が頭から離れないのだ。
 何をバカなと笑われるかもしれないが、歴史を紐解けば必ずしも時代は一直線に進歩したわけではなく、時にはジグザグに、またある時は足踏みしながら「進んでいる」ことが理解できる。

進化ではなく変化しただけ

 「歴史はらせん形に進む」−−私はそう考えていた。だから2008年旧正月に発行したメルマガ(栗野的視点(No.290):歴史はらせん形に進む−−時代の修正作用が働き始めた)でも以下のように書いた。
 「歴史は決して1本調子に発展も後退もしない。かといってジグザクに進むのでもない。ある時には後戻りしているようにも見えるが、確実に過去をアウフヘーベン(止揚)しながら、いわばらせん形に進んでいるのである」

 しかし、いまこの考えに疑問を持ち始めている。さらに言うならダーウィンの「進化論」にさえ疑問を感じ始めている。何をいまさら時代錯誤なことをと言われるかもしれない。「進化論」は地動説と同じくらい真実ではないかと。
 「ダーウィンの進化論」と日本語で表記するから、生物は進化していく、あるいは環境に適応しながら進歩してきたと思い込んでしまうが、原語を見ればダーウィンは進歩や前進を意味する「Evolution」ではなく、「Descent with modification(変化を伴う継承)」という語を使っている。「進化・進歩」と捉えられるのを注意深く避けていたのだ。日本語の「進化論」は誤訳と言った方がいいかもしれない。少なくとも一般人には間違った印象を与えてしまった。

 それはともかくとして、歴史は一直線に進むのではなく、らせん形を描きながら、それでも確実に進化・前進しているというのが私の歴史認識だった。
 ところが、今この考えは訂正した方がいいかもしれないと思い始めている。それは進歩というには程遠い現象、むしろ後退していると言った方がいい現象が多く見られるからである。
 過去の歴史を厳密に検証すればするほど、例えば日本の歴史でも弥生時代は文明が進んでいない原始生活ではなかったことが近年の研究で明らかにされている。「らせん形に進む」というより、不連続の連続という言い方の方がまだ的を射ているかもしれない。

技術と文化レベルは反比例?

 例えば科学の進歩は人類に何をもたらしたのか。人類を幸福にしたのか。もちろん、その面はある。しかしその一方で大量破壊兵器を生み、大量虐殺を行い(現在も行いつつある)、環境汚染を進めてきた。
 人類は幸福になったのだろうか。利便性を手に入れた一方で失ったものも多く、現在が過去より幸福とは一概に言えそうにない。

 例えば「改革開放」後の中国は急激に現代化・資本主義化し、最先端のモノを作り出しているだけでなく、それらを使用してもいる。一方、彼らの文化・マナーレベルはといえば、先進諸国と比べれば残念ながら低い。
 もちろん近い将来、中国人の文化・マナーレベルは先進諸国並みになるだろうが、彼らの文化・マナーが歴史的に低かったわけでも、10年前、40年前、100年前はもっと低かったわけでもない。むしろ、その逆である。

 10年前、私は上海浦東空港から乗ったリニアモーターカーの網棚にPC等が入ったリュックを置き忘れ、ホテルの従業員からも旅行社の社員からも「中国で忘れ物が見つかることはまずない」と、暗に諦めた方がいいと言われた。それでもリニアモーターカーの終点地まで行き、色々尋ねているとJTBの中国人社員が親身になってあちこちに連絡し探してくれたお陰で、翌日、リュックは中に入っていたPCその他と一緒に手元に戻ってきた。
 今では考えられないかもしれないが、誰も網棚からリュックを持ち去らず、車内にそのまま残っていたのだ。
 40、50年前に中国旅行をした人はホテルに置き忘れた物が次の宿泊地まで届けられびっくりした経験をしたのではないだろうか。

 最近の中国人のマナーなどからは想像できないだろうが、彼らは礼儀正しく、慎み深くて、文化レベルも高い民族だったのだ。それが時代の経過とともに低下して行ったのだから、歴史は進んでいるのか後退しているのか。
 科学技術の進歩が幸福には必ずしも貢献しないということはいまでは常識の分野に入りつつあるが、文化レベルとは反比例するとまでは言い過ぎか。少なくとも両者の間に正の相関関係はなさそうだ。
                                               (2)に続く

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