この1、2年、あらゆる分野でパラダイムシフト(価値観・考え方の変化)が起きつつある。顕著に見られだしたのはリーマンショック後だが、我が国では少子高齢化社会の出現と、団塊の世代の現役引退がそれに拍車をかけている。
そこで、現在起きているパラダイムシフトを今後、シリーズで取り上げてみたい。初回はいま変化が最も大きい流通小売り分野の動きを取り上げる。
視覚障害者の自立支援と
買い物弱者支援がドッキング
小売りの基本は今も昔も、消費者が多くいる場所に出店することである。
この消費者を求めて駅前商店街が構成され、郊外型店舗が構成されてきた。
ところが、近年この出店パターンに異変が見られ出した。消費者が消えだしたのだ。人はいても、商品を購買する消費者が激減してきたため、以前の「方程式」が通用しなくなってきた。
一体どこに消費者は消えたのか。消えた消費者を求めて小売業の模索が始まっている。
1つの方向は従来型方程式(店舗の大型化による広域からの集客)の変形であり、もう1つの方向はその逆、という全く相反する2つの動きが見られる。
前者は各地の生協などが従来から取り組んでいた市場への参入で、ネット利用による注文や価格、配達などに特色を出すことで生き残りを図ろうとしている。
後者はマスマーケットではなくミニマーケットへの対応で、店舗も小型化することで活路を見出していこうとしているが、両者に共通しているのは「買い物弱者」への支援という側面を持っている(持たざるをえない)ことだ。
その中で今回は視覚障害者の自立支援と買い物弱者への支援をドッキングさせたユニークな取り組みを紹介したい。
ところで、視覚障害者といえば点字ブロックを思い浮かべる人が多いと思うが、点字ブロックが発明・開発されたのは岡山だということをご存知だろうか。
倉敷市で生まれ、その後、岡山市で旅館業を営んでいた三宅精一氏が苦労の末、発明・開発したもので、第1号は岡山県立盲学校(岡山市)に近い国道2号線の横断口に敷設(ふせつ)された。敷設工事費も含め精一氏の贈呈によるものだった。それから9年後、長年の苦労、心労が重なり精一氏は入院。その5年後にこの世を去っている。
私は岡山県生まれだが、不明なことに最近までこのことを知らなかった。たまたま通りかかった国道で「点字ブロック発祥の地」の石碑を偶然見て知ったという次第でなんともお恥ずかしいが、本稿を書くのもなにかの縁だろうと思っている。
さて、「買い物弱者」「買い物難民」という言葉がマスメディアで頻繁に取り上げられ出したのはこの数年である。
過疎地のみならず都心部でも買い物ができない人達が増えているということは2010年11月に配信した「栗野的視点NO.363:グローバルとローカル〜飽和時代の商品欠乏化」で書いているのでそちらを一読して頂きたい(「まぐまぐ」、リエゾン九州のHPに収録)が、最近、特に注目されているのが都心のマンションや団地住民の買い物不便さである。
スーパー等はどんどん大型化し、郊外に移転する一方で、従来あった団地や住宅地から中型スーパーの撤退が加速している。その結果、都心であるとないとにかかわらず商業空白地が増えているのだ。
毎日24時間注文、翌日配達
こうした状況下、北部九州で個別宅配サービスを行っているオレンジライフ(本社・福岡県久留米市三潴町)に協働事業の企画を持ちかけたのが一般社団法人視覚障害者自立支援協会(福岡市東区名島4-64-15、荒牧功一理事長)だ。なぜ、視覚障害者自立支援協会が宅配サービスの協働事業を始めたのかということは後述するとして、まずオレンジライフの個別宅配サービスの特徴を紹介しておこう。
同社のカタログ注文による個別宅配サービスの歴史はすでに10年あまりになるが、他社の同様サービスと下記の点で大きく違っている。
1.毎日、時間に関係なく注文できる24時間対応。
2.注文は電話やインターネット。
3.固定電話による注文は通話料無料
4.前日の深夜0時半までに注文すれば、翌日の夕方5時までに配達される
個別宅配サービスは、近隣にスーパーなどの小売店がない商業空白地の住民にとって欠かせない存在だが、それらの多くは週に1回の注文・配達システムを採用しているため、1週間先を見越してまとめ注文をしなければならない。
私事で恐縮だが、岡山県北の過疎地で一人住まいをしている母も、近くにスーパーがないため、この種の宅配サービスを利用しているし、そのお陰で非常に助かっている。ただ、注文・配達が週に1回なため、どうしても保存が利く冷凍品中心の注文になり、生鮮食品をあまり買うことができない。
(続く)
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