田舎生活で見えた環境問題(1)
〜鹿の異常繁殖


栗野的視点(No.706)                   2020年9月15日
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
田舎生活で見えた環境問題
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 田舎への「移住」生活が2か月を迎え、今までで最長の滞在になった。その間、出かけた所と言えば、7月下旬のひまわり畑(兵庫県佐用町)と蓮池(鳥取県)ぐらいで、車は駐車場でずっと手持ち無沙汰にしている。
 別にCOVID-19を恐れて外出していないのではない。花撮りに出かけたいのだが、ヒマワリ、蓮の後はコスモスと彼岸花が咲くまで撮影対象がないため、やむなくじっとしているだけで単調な生活を送っている。

ポツンと一軒家?

 毎朝とまではいかないが早朝ウォーキングは田舎生活でも続けている。ポールを持って歩く姿が珍しく目立つのか、それとも早朝に歩く人が少ないのかは分からないが、農作業中の人と仲良く(?)なり、立ち話をすることも増えた。
 生まれ故郷とはいえ、18歳までしかいなかったし、若い頃は田舎に興味がなかったので地域のことは地理地名を含めほとんど知らない。だから逆に今、見聞きするものが新しく、興味が湧き好奇心が掻き立てられる。すると調べたくなる。
 例えば朝のウォーキング中、山の中腹にポツンと家らしきものが見えることに気付いた。山の上に「ぽつんと一軒家」という程人里離れているわけではないが、わざわざそんな所に家を建てて住む必要はなさそうに思える。山裾には畑も集落もあるのに、なぜちょっと離れた所に家を建てているのか。果たして今でも誰か住んでいるのだろうか。いつもの癖でムラムラと好奇心が湧いてくる。
 だが、見知らぬ男がいきなり民家の庭先を覗き込めば怪しまれるに決まっている。しかも「こんな所になぜ家があるのか気になって」などという訪問理由ではなおのことだろう。
 それにしても気になる。気になると、なんとか疑問を解決したいと毎朝、ウォーキング中に思うようになる。その山が見える川岸でしばらく眺めていたこともあるが、人の出入りはない。仮にあっても山中だからこちら側からは人の姿までは見えない。

 そんな疑問を抱えながら1週間あまり経った時、農作業をしている人に出会った。ウォーキングは車が多い国道を避け農道を歩いているが、いつも見かけるのは決まって同じ場所に止まっている軽トラックだ。その日はたまたま軽トラックに乗ろうとしている人の姿が見えたので急ぎ近付いて話しかけた。
「済みません。川向こうの山の中腹辺りに家らしきものが見えますが家なんですかね。誰か住んでいるんでしょうか」
「ああ、あれですね。私もよく知らないんですが家ではなく祠のようなものらしいですよ。向こうの部落の人が年に1、2度集まって登っているようです」
「そうなんですか。ということはそこまでは登れるということですね」
「ええ、道も少し整備されているらしいですよ」

 民家ではなく社か祠のようなものがあるらしいと分かったので、日を改めて登ってみることにした。それなりの準備というか、いくらなんでもウォーキングの軽装ではまずいし、時間帯も早朝より昼間の方がいいだろうと考えていたが、翌朝、いつものように歩きだすと自然と足がそちらに向いてしまった。

鹿の異常繁殖

 遠目に家のように見えたのは観音堂だった。山道はとても年に1、2度も人が登ったとは思えなかったが、それでも一応人が通れるようにはなっていた。
 古びたお堂があっただけで、中を覗くと観音様らしきものが見えたが、果たしてそれが歴史を感じさせるものかどうか暗くてよく分からなかった。
 お堂の先は道もあるやなしやという感じだったので、取り敢えず登るのはそこまでにして下りると人がいた。続いて軽トラックがやって来たので道を譲ったついでに初対面の3人で立ち話。

 「上まで登ってこられたんですか。ここは鹿だけでなくイノシシもよく出るから
注意した方がいいですよ。あれもイノシシが掘り返した跡です」
 指さされた川の方を見ると中州にスコップで掘り返したような跡が見えた。
「イノシシは川も泳いで渡りますから」ともう1人の男性。
「今日の奴は大きいですよ」
 そう言われて軽トラの荷台を見ると、1頭の鹿が横たわっていた。聞くとワナを仕掛けて捕獲したとのこと。荷台に近付いて覗き込もうとすると「ダニが一杯いるから注意して下さいよ。腹の所に黒い点みたいなやつが一杯見えるでしょ。それ、皆ダニですから。噛まれるとヤバいですよ。死にますから。『コロナ』より怖いですよ、マダニは」と注意された。
「自分達は山に入る時は長袖で、ダニ除けスプレーをかけ、帰ったら家に入る前に着ているものを全部脱ぎますから」と。

 捕獲した鹿はどうするのか興味があったので尋ねると、ジビエ処理場があり、そこに持っていくとのことだった。てっきり鹿肉が売れるのだろうと思ったが「肉はタダです」。「えっ、肉を売るんじゃない?」「肉はタダなんです。その代わり駆除費が出るんですよ。昔は鹿は保護の対象で捕ってはいけんかったけど、今は増え過ぎて、今度は害獣ですよ。それで駆除することになったんです」
 彼の口調に、人間の勝手で保護されたり駆除されたり鹿達に対する哀れみのようなものを感じた。1頭につき1万5000円近い駆除費が貰えるようだから、ちょっとした小遣い稼ぎにはなる。
「毎日捕れれば楽なんですが、罠にかかっている日もあれば、捕れない日もあるからですね。それでも〇〇爺さんは毎日捕っているから月に30数万円ですよ。そんだけ稼げりゃあ仕事せんでもいいから楽なもんじゃ」

 今、山郷や地方では鹿害に悩まされているという話をよく耳にするし、田畑には必ずと言っていいほど電気柵が施されている。ほとんどが鹿除けらしいが、背が高く上の方に電気コードを張っているのは鹿除けで、背が低く下の方に2段張っているのは主にイノシシ除けらしい。
 ただ、敵もさるもので、鹿は電柵の上を飛び越えて田畑に侵入するというし、イノシシは下の地面を掘って入ってくるらしい。
                             (2)に続く
 


(著作権法に基づき、一切の無断引用・転載を禁止します)

トップページに戻る 栗野的視点INDEXに戻る



Dynabook Direct

デル株式会社

超字幕