外需か内需拡大か
第2次大戦後、米国は「世界の工場」だった。世界が戦後復興期にあり、モノが欠乏していたから車をはじめ作れば売れた。おまけに市場は世界にあり、どんどん広がっていった。
だが、戦後復興期が過ぎれば今まで輸入していた各国は製品を自国で製造し出す。最初は物真似の粗悪品でも技術力のアップとともに品質もアップしていく。さらにメンテナンス等の付加価値も加っていき、やがてそれらの製品は逆に米国へ輸出されるようになり、米国市場で一定のシェアを持ってくる。気が付いた時は輝かしい工業地帯はRust Belt(ラストベルト、Rust=金属のサビ)になっていた。
これはなにも70年代、80年代の米国の話だけではない。いま先進国のモノづくりは中国、インドなどの新興国に奪われ、自国の製造業は海外に移転して製造を続けているか、そうでなければ廃業の憂き目だ。
日本の製造業とて状況は同じ。ただ、日本の製造業は中小企業が支えており、それらの企業は海外移転をせず大半が国内に残っているため米国のように目立ったラストベルト現象は見かけない。とはいえ状況的には変わらないし、同じ道を辿るのはほぼ間違いない。
日本の場合はラストベルトというより大企業の工場(関連企業を含む)誘致をした地方の衰退・過疎化現象が問題になっている。涙ぐましい努力をして誘致した企業が海外に工場移転その他で突然撤退という現実に多くの自治体が見舞われている。後に残ったのは失われた雇用だけではなく、補助金その他で厚遇した自治体の負債が残るというダブルパンチに見舞われている。
何が問題なのか。なぜ国内の空洞化が進むのか。どうすれば防げるのか。
問題はいくつかあるが、答えはただ一つ。しかし、誰もがそれを分かりながら、様々な理由を付けて認めたがらない。あるいは非現実的だとして目を瞑っていると言った方がいいか。
トランプ氏はそれを口にした。今までタブー視されていたことを堂々と公言したばかりか、それを実行しようとしている。多少行きすぎている嫌いはあるが。
小泉政権時代を思い起こしてもらいたい。あの頃、日本は欧米諸国から内需拡大を要請されていた。市場を他国に求めるのではなく、自国内で需要を拡大せよと。今トランプ氏は中国に対し同じことを言っている(言い方は違うが)。
他国に内需拡大を要求しても、それを実行してくれるとは限らない。いや、実行する国はないだろう。日本だって表面は内需拡大と言いつつ、米国向けの輸出量を多少減らした程度なのだから。
国内回帰で需要増の期待
ここで再度、自由貿易の問題に立ち返ってみよう。自由貿易の恩恵を受ける国はどのような国だろうか。
まず考えられるのは国力が豊かで、発展段階にある国、勢力拡張に野心的な国だろう。では、それらの段階を通り越した国、生産人口が頭打ちか減少を始め、高齢化社会になっている国はどうか。実は先進国の多くはすでにこの段階に達しているのだが。
これらの国の製造業は米国に見られるようにかつての製造拠点がラストベルト化し国内に製造業が残っていないか、残っていても国際競争力が劣っている。
国際競争力という面では新興国に敵わない。それは単に人件費が安いというだけではない。技術力は急激にアップし、品質は年々見違えるほどよくなっている。その好例がPCやスマートフォン(スマホ)だ。かつてこれらの分野をリードしたIBMやNECはレノボに引き継がれ、スマホは中国勢で占められている。日本メーカーで今でもスマホを作っているのは富士通とシャープ(鴻海の傘下になりはしたが)だけという有り様だ。iPhoneでさえ米国内で製造されてはいない。これではトランプ氏のように愛国心があるなら国内に製造拠点を移せと言いたくもなるだろう。
では国内に製造業が回帰すれば失業者は減少し、国内経済は好転するのか。もちろん、働く場所が増えれば雇用は増す。雇用が増えれば収入も増え、その分、消費に金が回る。と直線的に行けばいいが、ことはそう単純ではない。
まず製造業の国内回帰の問題。
一時、中国への工場移転がブームになり、大手企業はほぼ軒並み、中小企業も移転ブームに乗り遅れるなとばかりに次々に中国へ、その次はベトナムやミャンマーへと安い労働力を求めて進出して行ったが、結果はどうだ。今は中国からの撤退ブームという。無責任に新興国への進出を煽った行政はもちろん責任など取らない。
攻撃より守り、進出より撤退が難しいのは昔から戦いの常識。分かってはいても勝っている時、攻撃している時に、逆のことを念頭に置くのはなかなかできることではない。常に負けた時のことを考えて戦い、常勝将軍とまで言われたナポレオンでさえ無謀な遠征を行って最後には敗北している。
(3)に続く
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