なぜジーンズメーカーは相次ぎ経営破綻したのか。(4)
日本の製造業が抱えている課題、問題点〜


旧態然とした流通と内向きの発想

 ジーンズは古くからジーンズ専門店で販売されてきた。初期は三信衣料、現在はライトオンやマックハウス、ジーンズメイトといった専門店で。これらの店で慣行になっているのは多くの衣料品と同じように委託販売である。早い話がシーズンオフに売れ残った商品はメーカーに戻ってくる。
 これはなにもジーンズに限ったことではなく、ほとんどの衣料品、デパートを含むほとんどの小売店で実施されている方法だが、これが販売店、メーカーの力を弱めていっているのは間違いない。
 メーカー、卸は返品率を盛り込んで価格設定をしているし、小売りは売り切る努力をしない。気にするのは棚の欠品だけだから、常に過剰仕入れをする。

 この方法の弱点は消費者の購買動向をメーカーが把握しにくいということだ。卸の方だけ向いていれば商品が売れていた時代はそれでよかったが、消費動向が変わると、途端に困ることになる。これはなにもジーンズ業界に限ったことではない。家具や陶磁器業界も皆同じ構図である。
 いま頃になって消費者の方を向かなければならないと考え、打った手が市議会でジーンズを着用するとか、町内の宴席などで乾杯する時には地元生産の陶磁器を使うというもの。
 当初、このニュースに接した時に、またまた既視感を覚えたのと、向いている方向が違うだろうと考えたが、衰退する業界はどんどん内向きになっていくようだ。既視感の方はどこかの自治体が富士通の窮地を救うために市民は同社のパソコンを使おうと呼び掛け、同社製のパソコンを購入すると若干の補助金を出したのではなかっただろうか。そんなことをしても企業が人員減らしのリストラをやめるわけはないのに。

 ジーンズの着用運動を進めているのは岡山県倉敷市で、2007年から9月議会を「ジーンズ議会」と名付け、議会開催中は議員だけでなく市職員も、できるだけジーンズを着用するようにしている。また2011年4月から児島商工会議所は制服をデニム地ジャケットにし、全職員が着用するようにしている。
 因みに岡山県倉敷、児島、広島県福山は三備地区(備前・備中・備後)と呼ばれ、日本のジーンズの一大生産拠点である。余談だがエドウインの社名は三備に対し、「江戸(ED)が勝つ(WIN)」という意味を込めて付けられたという説がある。公式には「DENIMのアルファベットを自由に並べ換えた」となっているが、俗説の方がはるかに面白いし、意気込みを感じられる。だからなのか、公式説は後から作ったものだと信じている人は多い。

 産地PRは必要なことだし、地元が地元産品を愛用するのはいいことで、そのこと自体を否定はしないが、産業が衰退し出してから行っても、その程度のことで衰退を止めることはできない。内向きのマスターベーションではなく、対外PRの方が必要で、議会開催中にジーンズを着用するより、出張で県外に出かける際や市長他が東京等へ出張する時に必ずジーンズを着用した方が、同じジーンズ着用でもよほど効果があると思うが。

 このような内向き支援は伝統産業、衰退産業に共通なようだが、中には条例まで作ったところがある。波佐見焼で知られる長崎県波佐見町は町内での宴席などで乾杯する際には地元の波佐見焼の器を使うよう促す条例を2013年9月に可決している。罰則規定はないとはいうものの、条例で規制するようなものかと思うが、常滑(とこなめ)焼で知られる愛知県常滑市でも同様の条例を同じく9月に制定している。
 どうしてこのような内向きの発想しかできないのだろうか。それより市場動向を徹底的に調査して対策を練り、消費者に新しい提案をすることの方が必要ではないかと思うが。
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