「高く買わないで」という広告
同じような動きは昨年12月、メーカーでも見られた。かつて持っていたメーカーの力(価格決定権)が流通大手に取って代わられて久しいが、それに異を唱える酒造メーカーが現れた。日本酒「獺祭(だっさい)」で知られる旭酒造(山口県岩国市)がそれだ。
「獺祭」は安倍首相が各国首脳に贈ったこと等で一躍有名になり、以来、「手に入らない酒」「高値の酒」と言われていたが、こうした状況にメーカー自身、おかしいと感じていたのだろう。12月10日の読売新聞全国版に「お願いです。高く買わないでください」と書かれた全面広告を出した。
通常、広告は商品を売るために行うものだが、自社商品を「買わないで」と大書した広告は異例といえる。
厳密に言えば、ただ単に「買わないで」と言っているわけではなく、「高く買わないで」と言っているわけだが、全国紙に全面広告を出すとなれば、それなりに広告費もかかる。それでも商品広告なら販促効果が期待できるが、「買わないで」では逆効果といえる。
とはいえ、必ずしもそうとばかりは言えない面もある。注目を集めるという意味では逆に大いに効果があるからだ。まあ、同社がそこまで考えて上記広告をしたのかどうかは定かではないが、消費者に同社の姿勢を正しく伝えたいという意向は十分伝わったと思えるし、私自身も同社のこの姿勢に拍手を送りたい一人である。
似たような現象は過去にもあった。焼酎ブームの時に一部メーカーの商品がプレミアム価格で販売されたり、過去の日本酒ブームの時にも同じような現象が起きた。
いずれもメーカーが出荷価格を引き上げたわけではなく、流通過程の中で価格が高騰していったわけで、販売価格が跳ね上がってもメーカーが得することはなにもない。それどころか不利益になることの方が多い。
ブームはいつか終わる。ブームに乗って一緒に舞い上がると、「宴の後」の反動が怖い。酒や焼酎は工業製品と違って、売れているから納品数を増やせ、増産したいと思っても数か月後に倍増というわけにはいかない。設備投資は別にしても、仕込みから1年かかる。原材料の仕入れ先を替えれば品質が変わることはままある。それが元で古くからの顧客に「味が落ちた」と言われれば、後々に影響する。
そうした事例を見聞きして知っているから、堅実なメーカーはブームで不当に高い価格で販売されることを内心苦々しく思っていても、それを表立って言うことはなかなかできない。酒造メーカーや焼酎メーカーには小さな蔵元が多いから、「うちの出し値は変わっていないんです」と馴染み客に愚痴るぐらいだ。
そう考えれば今回の旭酒造の「高く買わないでください」という全面広告は業界の声を代弁したものと言える。
ただ、「高く買わないで」と言われても、いま売られている価格が妥当なのかどうかが判断できない。そういうことも考え、同社は紙面に希望小売価格を載せている。それによると「純米大吟醸50」は720mlが1539円、1.8lで3078円。「磨き三割九分」は720mlが2418円、1.8l4835円。そして紙面の下3分の2に全国にある正規販売店約630店の名前を載せている。
この動きに、転売目的で「獺祭」を抱えていた業者が一斉に商品の放出に走ったのかどうかは不明だが、いま「獺祭」を店頭で見かけることが増えたし、普通に手に入るようになった。
いままでは「業界の常識」に従い「横並び」で販売していた小売業や、流通業者任せにしていたメーカーが販売の原点に立ち返り、業界の常識に「ノー」と言いだし始めた。こうした動きがやがて大きな潮流になるかもしれないし、そうなることを期待したい。
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